なべ

劇場版「鬼滅の刃」無限列車編のなべのレビュー・感想・評価

3.3
 ドラマやテレビアニメの続編映画化が嫌いだ。テレビで始めたことはテレビ内で完結して欲しい。そうした映画はおよそ内容、演技、構図がテレビ的で、劇場のスクリーンで観るような仕上がりになってないから。アニメの劇場版の場合、オタクのリピーターやチビッコが鑑賞を妨げることもしばしばあるので、さらに消極的になる(例えば、初見の一般人より自分はよく知る者だと幼い優越感を満足させるため、食い気味にオーバーなリアクションをとったりする熱狂的信者とかほんとヤダ)。
 鬼滅の刃はたまたま本編を全話観ていたのと、今月が期限のIMAXのタダ券があったので、記録的な動員数の理由を確かめてきた。

 正直、作品のレベルとしては諸手をあげて褒め称えるほどではないと思う。
 相変わらず心に思ったことを最大漏らさず語り尽くす炭治郎は橋田壽賀子も真っ青だし、2時間使ったストーリー構成も緻密とはいい難い。所々で挟み込まれるギャグもテレビならともかくこのサイズでやるか?とうすら寒くなった。まあ、少年漫画誌の中で最も読解力が低い人向けのジャンプ作品なのだからそれは仕方ない。子供が見ることを念頭に置かれた作品であることは織り込み済みだ。

 鬼滅アニメのどこがいいかと尋ねられたら、洗練されたアクションと、浮世絵風グラフィック表現がとても心地いいからと答えている。
 原作ではよくわからないドタドタッとしたアクションが、アニメではとてもわかりやすく、滑らかで、かつスピーディに描かれているのだ。ほどよい緊張感と時代劇ホラーにマッチした和柄の剣の軌跡が縦横無尽に動くのを見てるだけでワクワクする。
 逆にダメなところは、ご都合主義な設定(ジャンプの読者層にはバッチリなのだろうが)と安物くさいCG。
 特にCGに関しては、予算に限りのあるテレビシリーズでは仕方ないと割り切れるが、映画版でも稚拙さはそのままだった。2020年の技術がこれ? 少なくともそれで行くなら行くで、せめて手描きでトレースし直すくらいの手間はかけて欲しかった。30年以上も前にAKIRAで濃密なぐちょぐちょを観ている目には、つくり手の誠実さを疑いたくなるようなひどい出来だった。ことCGに関しては熱心な信者でも擁護は厳しいよね。
 そんなへなちょこCGがふんだんに使われている前半の魘夢のくだりは、テレビで充分だったのではないか。みんなもそう思ったでしょ。てか、魘夢ザコだし。
 と、がっかりしていたところに唐突な猗窩座の登場。もうちょっと事前に外からの視点カットを入れておくとか、その存在を匂わせておくくらいの配慮は欲しかったが、これはアガった。煉獄と猗窩座の殺陣シーンだけで、それまでの残念さがすべて帳消しになった。2人の壮絶な一騎打ちは見応え充分。てか泣いた。告白するとかなりヤバかった。普通にしてたら、嗚咽でハフハフしちゃいそうだから、全集中の呼吸でやっとこ凌いだほど。ああ苦しかった。同じ症状の人が多かったのか、無音の瞬間に深い呼吸音がここかしこで。
 もちろんモンクはある。テレビシリーズでは顔と声だけ知ってた程度の煉獄をそんなに簡単に消費するのはどうかと。いやしくも柱なんだからそこはもう少し丁寧に大事に使っていいのではないか。せめて煉獄の人柄や過去を見せておいてくれていてもよかったんじゃないか。そうした下ごしらえがあれば、感動はより深く説得力をもって受け入れられたのに。あれでは力任せに泣かせにきてるだけだ。そういう繊細さに欠けるつくりが残念でならない。
 入場時に「煉獄零巻」って書き下ろしの短編漫画をもらったのだが、これよ!こういうこと。これを本編でチラッとでも描いておいてくれたら…。ちっ、上映前に読んどくんだった。

 散々批判してるけど、観てよかったと思ってる。それは炭治郎と伊之助が好きだから。2人が連携して鬼と戦う姿を観られただけでほんとは満足なのだ。
 善逸は別にいなくてもいいや。ウザいから。

追記
 波に乗り遅れた人に、観た方がいいか?と聞かれることがあるんだけど、このブームはバブルなので、無理して観るほどの作品ではないと伝えてる。バカにモノをいうジャンプスタイルが合わない人は、手を出してはいけないとも。
なべ

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