Filmoja

劇場版「鬼滅の刃」無限列車編のFilmojaのレビュー・感想・評価

5.0
公開10日間の興業収入が史上最速107億円突破、観客動員790万人超!まさかここまでの特大ヒットになろうとは…よもやよもやだ。
コロナ禍に喘ぐ劇場を救う起爆剤どころか、その爆発的な勢いは留まる気配がなく、最終興業成績が歴代記録を更新するのは確実なのでは…。


というわけで行って参りました「鬼滅」祭り。
もともと小2の娘が学校の学童保育で原作コミックを読み始め、それに引きずられるように配信でTVアニメを観始めたのがきっかけで、奥深い作品の世界観に魅了され、今ではすっかり父娘でファンに。

最初は(子ども向けとしては)あまりに残酷な描写に少し引いたけど、どこか懐かしいような時代設定の温かみと、個性的でそれぞれに苦悩を抱えたキャラクターや、浮世絵エフェクトが斬新な剣戟アクションと、もともと人間である鬼の視点をも織り込んだ情感あふれる演出に、一気に惹き込まれてしまった。

初見がアニメからだったので、その感動を失いたくなくて「那田蜘蛛山編」以降の原作エピソードはあえて読まずに、全集中・鑑賞の呼吸で無限列車に乗り込んだ結果、娘ともども全共感、全号泣…。

今回の敵である十二鬼月の眠り鬼・魘夢が繰り出す血鬼術が見せる、憐憫と悔恨が交錯する幸福な夢の中で、それでも迷いを振りきって、まっすぐに努めを全うしようとする鬼殺隊の主人公・炭治郎の澄みきったまっすぐな想い。
それに呼応するかのような兄貴分の炎柱・煉獄の燃え盛るような烈火の想いと貫く信念。
観る者の心にも炎を灯すようなその生きざまが胸を焦がし、涙を堪えられなかった。

素朴でウェルメイドな原作のタッチと「無限列車編」のエモーショナルなストーリー展開、それを劇場版でドラマチックに進化させてしまう制作ufotableによる超絶技巧の圧倒的な映像美と、気迫の込もった声優陣の熱量が絶妙な相乗効果となって立ち現れる本作のカタルシスは、他に類を見ないほどの凄まじい高揚感だ。

しかも単独作ではない、いわゆる予備知識が必要なTVアニメの劇場版で(原作人気とメディアミックスのプロモーションが奏功したとはいえ)、これだけのヒット作が生み出されたのは令和の映画界最大の事件かも知れない。

これまでの少年マンガのオーソドックスな王道をなぞりつつ、単純な勧善懲悪では終わらない慈愛の目線と、キャラクターそれぞれが背負っている傷み、哀しみの重みが切なさを増幅させ、感情移入せずにはいられない没入感。
ダークでシリアスでありながら、コミカルなユーモアも欠かさないバランス感。

コロナ禍もあり、このところ昏く哀しい報せが相次ぐ中、辛くてもしんどくても、それでも人生に立ち向かい、日々を生きる私たちを照らす灯し火のような、そんな作風が最大の魅力なのだろうと思う。


この日、8歳の誕生日を迎えた娘は終盤、恥ずかしそうに腕を抱え込んで涙を隠していたけれど、共感して観ていた娘の成長を感じながら、そっとハンカチを差し出した。
まだまだ不器用で未熟で弱味噌な父親だけど、自分も作中の柱のように継子を強く導いてあげられる存在でありたいと願いたくなる、あたたかな絆を思い出させてくれる傑作だった。
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