タケオ

ジャッリカットゥ 牛の怒りのタケオのレビュー・感想・評価

4.4
-狂乱の果てに目覚める「野蛮」を真っ正面から描ききった大怪作!『ジャッリカットゥ 牛の怒り』(19年)-

 あらすじ自体は至ってシンプルだ。インドのケラーラ州にある辺境の村で水牛が逃亡してしまい、村人たちがそれを追いかける───内容としては本当にただそれだけの、なかなか潔い作品である。
 本作は『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(15年)がそうであったように、物語の「寓意性」を追及するために余分なものを徹底的に削ぎ落とした結果、映画そのものが極限まで「純化」されたタイプの作品だ。台詞では物語の本質がほとんど語られていないため、能動的な鑑賞を要求されることとなる。「水牛が逃亡したことで人々の生活が崩壊していく」とだけ要約した場合、本作のことをある種の「モンスター映画」として観ることも可能だろう。しかし物語中盤に至って、水牛ではなく「群衆」と化した村人たちこそが「モンスター」としての様相をまとい始めるのが本作の面白さだ。水牛の逃亡をきっかけに始まった「非日常」という祭りの中で、誰も彼もが我を失っていく。終盤で顔の判別がつかないほどまでに泥まみれになった村人たちの姿は、狂乱の果てに「個人」が「群衆」へと溶解してしまった様を視覚的に表現したものだ。「群衆」へと成り下がった村人たちの熱狂が最高潮を迎える怒涛のクライマックス、そのあまりにも異様な光景には度肝を抜かれた。『イナゴの日』(75年)すら彷彿とさせる阿鼻叫喚の地獄絵図は、ぜひ皆さん自身の目で確かめていただきたい。
 とまれ、ダイナミックな撮影とリズミカルな編集が生み出すドライブ感はただ事ではない。文明化が進んでもなお人間の奥底で燻る「野蛮」が、「非日常」をきっかけに遂に噴出するその瞬間を圧巻の迫力で描ききった大怪作である。
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