ワンコ

夕霧花園のワンコのレビュー・感想・評価

夕霧花園(2019年製作の映画)
4.2
【借りものではない愛情】

僕達は、きっと、様々なものを借りて、この世界で生きているのだ。

この作品は、借景の日本式庭園だけではなく、無常という宗教観、さらに、ユンリンの華奢な背中の刺青に残した余白などを通じて、外国人が興味を示したり、理解しようとする日本の精神性を提示し、太平洋戦争の戦中・戦後を通じて、有朋とユンリンの深い愛情を見つめる作品だ。

強制的に連行された女性で慰安所を作ることは国際条約で禁じられていた行為だ。
敗戦が明らかになると証拠隠滅を図るために、慰安所となっていた修道院は爆破され、慰安婦も殺害された。
これが物語のベースだと思う。

(以下ネタバレ)

このようにして、妹を亡くしたユンリン。

自身は逃亡し、かろうじて命を繋いだが、妹の遺言、つまり、日本式の庭園の造園を実行するために、戦後、帰国せずに夕霧の造園を続ける有朋のところに通うようになる。

有朋は兵士ではないが、何かを知っているように思える謎の多い人物だ。

ある日、夕霧という名の庭と、ユンリンの背中に刺青を残して、有朋は姿を消す。

時代を経て、夕霧に残された四つの大きな石からユンリンの背中の刺青に残されたメッセージが読み取れるようになり、そして、妹の遺骨の眠る慰安所の場所もおおよそ明らかになる。
更に、有朋が、日本軍の財宝らしきものを使って、慰安所に連行されそうな少女や若い女性を救っていたことも朧げながらに見えてくる。

日本軍が太平洋戦争中に行った残虐な行為は決して許されるようなものではない。

しかし、ドイツやイタリアでも一般の市民が、ユダヤ人を匿って助けたという事実が多く残されているように、日本人も人の心を忘れず、弱い人を助けたというエピソードを仕立て、日本の精神性を表す日本式庭園を謎解きのヒントに、成就はしなかったが、時代を超えて繋がる有朋とユンリンの深い愛、つまり、借りものではない愛情を示した物語だ。

また、観る人によって、様々なメッセージも読み取れる作品でもあると思う。

ところで、有朋といえば、日本人は山縣有朋を思い浮かべる人が多いように思うが、南禅寺界隈の無鄰菴は、日本式庭園で知られた山縣有朋の別荘だったところで、一般公開もされています。

また、その近所には、金地院さんがあって、小堀遠州の鶴亀の庭が素晴らしいので、ぜひ足を運んでください。

もし、日本式庭園に興味があれば、祥伝社の新書「日本の10大庭園」がおすすめです。

長谷川等伯の作品に特徴的な余白が、少し意味が異なるように感じますが、謎解きのヒントに取り上げられたり、好感の持てる作品だと思いました。
ワンコ

ワンコ