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夕霧花園のodyssのレビュー・感想・評価

夕霧花園(2019年製作の映画)
2.5
【西側チャイニーズの世界観による映画】

第二次世界大戦中、マレーで日本軍が行った虐殺行為などを描きつつ、他方で中国系女性と日本人男性の恋愛を描いています。

文化的に見るなら、日本文化の宣伝もしてくれているのでありがたいようではありますが、造園家が入れ墨の専門家でもあるという、ちょっと摩訶不思議な設定で、ようするにリアリズムという点から見てかなり問題があると言わざるを得ません。映画だから目くじらをたてる必要もないという見方もできますが。

しかし、他方で日本軍による残虐行為も描いているので、この映画がどの程度現実に立脚しているのかは、慎重に見定める必要があります。

この地域で中国系住民に対する日本軍の虐殺行為があったこと自体はそのとおりです。
しかしこの映画だけではその背景が分かりません。「日本軍は残酷だからこういうことをやった」では説明になっていない。
なぜなら軍隊は基本的に駐留する土地の住民とうまくやっていかないといけないので、戦闘員でもない一般住民を殺すような真似はふつうはしないものだからです。

マレーには大きく分けて三種類の住民がいます。
マレー系(現地民)、中国系(華僑とも呼ばれる)、インド系です。
そして第二次世界大戦の直前まで、マレーは英国の支配下にありました。だから支配階級は英国人なのですが、経済関係を牛耳っていたのが中国系。これに対して先住民族のマレー系は農業、インド系は肉体労働が多かった。

第二次世界大戦が始まると、日本は英国と戦闘状態になったわけですから、英国の支配していたマレーにも電撃的な作戦を敢行して英国軍を破ります。
そして問題の虐殺は、中国系に対してだけ行われたのです。
なぜか。
中国系は、すでに本国の中国で日本軍と中国軍が戦争状態になっていたので、その関係でマレーにおいても日本軍に敵対行動をとると見られたからです。
これがどの程度実際にそうだった(中国系住民がひそかに反日本軍の行動をとった)かについては諸説あります。
ですから、中国系住民に対する虐殺は無論国際法違反なのですが、純粋に無辜な住民を殺したとは言えない面もあるのです。
実際、マレー系とインド系の住民に対しては日本軍はそういう虐殺行為は行っていませんから。

また、それ以外に慰安婦についての描写もありますが、これまたどの程度歴史的事実に即しているのか、疑問です。慰安所があったこと自体は間違いありませんが、いわゆる「強制」によって慰安所勤務を余儀なくされた女性は、いたかも知れませんが、少なくともそれほど多数だったとは思えない。このあたりの描写には、韓国のプロパガンダの悪影響があるようにも見えるのです。

以上の点に留意してこの映画を見ると、もう一つのの特徴が浮かび上がってきます。
植民地としてマレーを支配していた英国人は悪く描かれていないこと。
これに対して、共産主義ゲリラは悪役として描かれている。
実際には、英国は共産ゲリラを嫌っていましたが、戦時中は日本軍が主敵なので、共産ゲリラとも妥協していたのですが。

そうしたいくつかの点に鑑みて、この映画は西側チャイニーズが作った、或いはそれに都合のいい映画である、と言うことができるでしょう。
監督はアメリカ生まれの台湾人だそうですが、中国人としてのアイデンティティーを持ち(したがってこの映画では中国系であるヒロインに感情移入している)、第二次世界大戦に関しては日本を批判する立場に立つが、しかし共産主義イデオロギーには距離をおいている、ということです。だから英国の支配は善(中国系住民には好都合だった)、共産主義ゲリラは悪、という構図になるのです。

そうした点に注意して見ると、この作品が一見すると敵対する国家の男女の愛を描いているように見えながらも、西側チャイニーズのプロパガンダ映画的な面も少なからず備えていることが見えてくるのではないでしょうか。
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