しちれゆ

戦争と女の顔のしちれゆのネタバレレビュー・内容・結末

戦争と女の顔(2019年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

たくさんの人に知ってほしい映画なのでネタバレします。
原作はノーベル文学賞作家スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチの『戦争は女の顔をしていない』。

1945年ロシア レニングラード。2人の元女性兵士イーヤとマーシャ。
マーシャの戦地(ドイツ)での任務は上級兵士たちの″支援″だった。″支援″とは通常の売春ではなく″戦地妻″になること。街で知り合ったサーシャという男性に想われ彼の家に連れて行かれたマーシャはサーシャの母親に拒絶される。さえないサーシャの母親は実は政府高官で彼は超エリート家系の息子だった。マーシャは言う「夫は数えきれない。出来るだけいい男を選んでいた。私は有能でした。2年間パンを稼いだ」。彼女は男の子を産んだがPTSDを持つイーヤの過失でその子を亡くし度重なる中絶によって子宮をなくしていた。自分の中の空洞を男で埋め我が子で埋めようとしていたマーシャはイーヤの妊娠を画策する。一方イーヤにはマーシャの子供を死なせてしまった自責の念と共にマーシャへの愛があり、マーシャに言われるがままに軍病院の院長と関係を持つ。苦悩の末 病院を去る院長を追いかけ尚も関係を迫るイーヤ。「私はマーシャの夫になりたい」イーヤの秘められたマーシャへの想い。

本作はロシア映画。戦争は特に全体主義国家においては相手国のみならず自国の国民への加害行為でもある。2人の女性の人間としての普遍的な苦悩と、時代によってもたらされた悲しみが美しい映像の中で克明に描かれる。繰り返される戦いの中にイーヤとマーシャは数え切れないほどいるに違いない。
これを作った当時カンテミール・バラーゴフ監督がまだ20代だったということに驚嘆する。多くのロシア人監督と同様にバラーゴフ監督もまたロシアを後にした。ロシアは自国の才能を次々に失っていると思う。
しちれゆ

しちれゆ