ラグナロクの足音

戦争と女の顔のラグナロクの足音のレビュー・感想・評価

戦争と女の顔(2019年製作の映画)
4.3
演出、ショット、構成、脚本、何にしても秀逸すぎる。赤と緑の力に眩暈がした。これを30歳で撮るとは。プーチンの魔の手からなんとか逃れてほしいものだ。個人的には中盤の贖罪とも取れる壮絶な性交の描写と後半の列車事故からのくだりに心をえぐられた。話は至ってシンプル。恋心を寄せる親友マーシャの子供を誤って死なせてしまったPTSD持ちの薄幸ノッポ看護師イーヤが、悲しむ心すら失ってしまったマーシャの命令に従って、世話になっている病院の院長との子どもを無理やり作ろうとするも失敗。やがて裕福な家の青年と結婚するというマーシャに嫉妬したイーヤは、訣別するというもの。戦争を究極の男性性の発露として捉えるならば、イーヤの様な性的指向を持つ者は本来最も遠い距離に位置している筈だが、そんな彼女の身体と心にはしっかりと戦争の傷跡が烙印されている。戦地で傷を負った男達が細やかながら英雄視される一方で、深い傷を負い過ぎた者は自ら死を選択し、女達は顧みられる事もなく再び彼等をケアする側へと回り、自らの傷が元でその傷跡をより深いものにしてしまう。イーヤと同じく戦争で男から傷を受けた者としてマーシャの身体からは確かな形で女性性と言うものが剥奪されているが、彼女を今日まで生かしたのもその女性たる資質故である。戦争に於いて「女」は「守るべき者」として男達の戦闘行為を継続させる一つの動機となる一方でその犠牲にもなる、銃後の守りとして、前線では慰安婦として、看護師として、そして直接的な戦闘の被害者として、最悪の場合は戦果に対しての報酬として。
ラグナロクの足音

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