りょう

戦争と女の顔のりょうのレビュー・感想・評価

戦争と女の顔(2019年製作の映画)
4.0
 ウクライナのゼレンスキー大統領が来日中というタイミングでロシアの映画を観るというのもどうかと思いましたが…。よくリサーチしていませんが、ウクライナにルーツのあるスタッフが参加しているようで、ロシアの政治体制を擁護する意図で製作された作品ではないようで安心しました。物語そのものにも反戦のメッセージがしっかり反映されています。
 序盤に登場するイーヤの息子らしきパーシュカが可愛らしくて顔がほころびますが、ほどなく悲劇が訪れます。このシーンをあの幼児に演じさせたのでしょうか。うまく表現されていますが、直視できないレベルでした。戦場から帰還したマーシャの登場で発覚するパーシュカの秘密も衝撃的です。
 これを物語のきっかけにして、戦友であったイーヤとマーシャの少しぎこちない共依存の関係が描かれます。2人が従事する戦傷患者の病院を舞台とする物語にも辛辣な場面が少なくありません。ドイツとの戦闘では対空砲射撃の部隊に所属していたらしく、戦場における女性の地位は、日本では別次元の概念です。病院に新しく女性院長が赴任したりするシーンも興味深く、帰還兵のPTSD、安楽死、リプロダクティブ・ヘルス、LGBTなどの描写もあります。現代のロシアで撮影できたことが不思議なくらいです。
 ほぼ劇伴がなく、周囲の環境音が自然に聴こえます。映像は徹底的に緑を基調にした色彩で、ところどころ赤をアクセントにしつつ、ほぼ黄とオレンジをベースにした色合いが1991年の「ふたりのベロニカ」を彷彿とさせます。映像の質感も含めて結構好きな雰囲気でした。
 ほとんど娯楽的な要素がなく、万人向けの作品ではありませんが、さまざまな要素がしっかり構築された堅実な作品です。
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