牛猫

だってしょうがないじゃないの牛猫のレビュー・感想・評価

4.0
自身もADHDと診断を受けた監督が、発達障害の親戚との交流を通して、さまざまな問題に触れるドキュメンタリー。

3年に渡る長いスパンで撮影されたということもあり、最初はぎこちなかったカメラマン兼監督の義史さんとまことさんの距離がどんどん近づいていくのが分かる。

桜の木が切られる時の悲しそうな表情とか、後見人の叔母さんに内緒で靴を買うところとか、エロ本がバレたところとかエピソードの一つ一つが面白い。

施設への入所を勧められた時に、もう駅伝や野球を一緒に観に行けないと寂しそうに呟いていたのも印象的。

発達障害を抱えて生きていくって言葉で語るのは簡単だけど、実際に映像で観てみると想像以上に生きづらそうだ。
毎日のルーティンが決まっていて、それが崩れるのを嫌がり、こだわりが強い。同じ動作を何度も繰り返したり好きなものをコレクションしたり、風呂は一週間に一回と決めたらどれだけ汗をかこうが決まった曜日にしか入らない。この場面の監督とまことさんの会話が考えさせられた。我々の方こそ誰かが決めた常識や概念に縛られているのではないか。周りに合わせるのは簡単だけど、疑問に思うことについて一度立ち止まって考えてみるのも悪くないと思わされた。

監督を筆頭に周りの人がみんな優しくて癒された。
しかし、優しいだけではなく現実的な問題や今後の方針についてしっかり向き合って考えてくれていて、色んな人に支えられているのだと思った。
その問題の一つに今後の住まいについての問題があったけど、長い間住み慣れた家を手放すのは健常者でもそれなりの覚悟がいる事だろうに、発達障害を抱えるまことさんからしたらえらい大変なことだろう。
施設に入るというのも周りはそんなに悪いところじゃないと言うけれど、そうはいっても他人と生活するというのは特にストレスになる。
その解決法について具体的な道筋が立たないまま終わってしまったのが、やや消化不良なところではあるけど、あれだけ周りの人に恵まれていたら大丈夫だろうと思えた。
しかし、現実に施設に入るのに順番待ちが発生していることや、支援が受けられずに孤立してしまっている人がいることもサラッと触れられていた。発達障害などの病気は見た目では分かりにくいからこそ、こういう人たちがいることを前提とした仕組みや環境を整えていくべきだと思った。
牛猫

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