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だってしょうがないじゃないのKKMXのレビュー・感想・評価

4.4
『タレンタイム』を再度観よう仮設の映画館にアクセスしたところ、観逃していたドキュメンタリーを発見。せっかくなので鑑賞しました。

内容はADHDを持っている監督が、従兄弟で発達障がいのまことさんの3年間を追ったものです。当事者同士だからか、2人の間に友情が芽生えており、バディムービー的な魅力がありました。また、年老いて家族に先立たれた障がいを持った人の今後の生き方についていろいろと考えさせられる、硬派なドキュメンタリーでもありました。


60歳のまことさんは、20くらいの時に父を亡くしたため実家に戻り、その後40年ずっと母親と2人で暮らしてました。まことさんは発達障がいと軽度の知的障がいを持ってますが、母親の生前は母親がまことさんの面倒を一手に引き受けていたため、まことさんの障がいのことは本人や母親も含めて誰も知りませんでした。しかし、母親が亡くなってまことさんの障がいが判明し、親戚や福祉が彼のサポートをすることになりました。
その流れで坪田監督もまことさんと交流を始めます。坪田監督はまことさんをドキュメンタリーの被写体と捉えて接近したのでしょうが、前述したとおり当事者同士だからか、普通に仲良しになっていきます。

まことさんは、これまでほとんど友だちとかいなかったんじゃないかなぁと想像しています。福祉の人たちは親切ですがあくまでサポートしてくださる人たちですし、成年後見人の叔母さんはまことさんのことを考えてくれてしっかり世話してくれますが、責任感によるものが大きく、気持ちのつながりとは別のところで動いているように感じました。まことさんは多くの人たちに囲まれてますが、心情的にはかなり孤独だと感じます。ずっと一緒だったお母さんを亡くしてますから、尚更でしょう。
そのような中で、フラットに付き合える坪田監督の存在はまことさんにはとても大きな存在だったと思います。一緒に野球を観に行ったシーンとか最高!まことさん、めっちゃ楽しそうでした。別れ際の電車でも名残惜しそうだったし。カラオケシーンも良かった。監督が訪問する日に、まことさんは家の前で「義史(監督の名前)さん来ないかな」とか言いながら待っているんですよ。まことさん、友だちを得た喜びでピカピカ輝いていました。
障がいがテーマになっているガーエーですが、それとは関係なく人には友だちが必要なんだということが、実によく伝わりました。
監督はやや介入しすぎるきらいはありましたが、それは友だちだから仕方がない!だんだんとお互いの心地よい距離を見つけていけばいいだけの話ですからね。


一方で、高齢の障がい者と周囲の現実的な問題も描かれておりました。
本作の中盤から、まことさんが生まれ育った一軒家で独居していて大丈夫なのか問題が浮上。世話をする人たちも高齢者が多いため、グループホームに入った方がいろいろと安心なのでは、という理屈で話が進みます。客観的に見ればその通りなので叔母さんや福祉の人たち、さらには監督も含めて話を進めていくのですが、実はまことさん自身の気持ちが尊重されていない。明らかに思い出深い上に慣れきったこの家にまことさんは住み続けたいと思っているんですよね。でも周囲は「無理だからしょうがない」と考えているようでした。
序盤でも、庭にあるデカい桜の木が隣人に迷惑をかけていると言う理由で切り倒されることになります。このときもまことさんは寂しそうでした。伸びすぎた枝を切る、とかで十分だったのでは?

このような当事者の気持ちを置き去りにしてしまうことは、大きな問題だと考えています。障がい者だろうが健常者だろうが、誰もが自分を生きたいんですよ。意思や主体性を大事にしないスタンスはどうかと思います。しょうがないと言う前に、出来る限りまことさんの気持ちを大事にして、家に残れるような道をみんなで模索する必要はあったのでは?詳しくはわからないけど権利の問題で退去しなければならなくなったようですが、無理だとしても残れるように尽力することが大切なのでは、と感じています。
出口は決まっているとは思います。最終的にはグループホームに行く運命は避けられないでしょう。しかし、それでもまずはまことさんの気持ちを尊重した上で現実とすり合わせていけばいいのになぁと思いました。
作業所見学のときに、まことさんが描いた絵が切ない。家と太陽、そしておそらく序盤に切り倒された桜の木(これははっきりとはわからないがその印象を受けた)を描くのです。なんか悲しくなっちゃった。

他にも、家族が障がい者を家庭内だけでなんとかしようとする文化に対しても複雑な気持ちになりました。もちろん現代ではまことさん家みたいなケースは少なくなってきているとは思いますが、いろんな意味で良くねぇなと感じます。


このように、単に感動するだけでなく、いろいろと考えさせられるガーエーでした。多くの方に鑑賞していただきたい一本でありました。
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