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シラノ・ド・ベルジュラックに会いたい!のumisodachiのレビュー・感想・評価

4.6


戯曲『シラノ・ド・ベルジュラック』の誕生を描いた作品。あんまり期待してなかったけど、おもしろかった!!!

19世紀末。詩人のエドモン・ロスタンはスランプに陥っていた。彼を買っている大女優サラ・ベルナールに名優コンスタン・コクランを紹介されたエドモンは、コクランから自身の主演作を書くように依頼される。真っ新な状態からなんとか芝居を書きあげなければいけなくなったエドモンは、とりあえず『シラノ・ド・ベルジュラック』というタイトルだけ決めて見切り発車をすることに。一方、美男で俳優の親友レオは舞台の衣裳係ジャンヌに恋をするものの、芸術を愛するジャンヌは無教養なレオが気に入らない。エドモンはレオの代わりのジャンヌと文通を始めるのだが、そうするうちに戯曲へのアイデアが湧いてきて……。

タイトルだけだとよくわからないが、本作は舞台製作を描いた作品だ。コメディ・フランセーズを追放されて借金まみれのコクラン、スランプ続きでこのままだと家族もろとも路頭に迷いそうなエドモン。後がないふたりが出会ったことで、世紀の大傑作が生まれることになるのだが、企画、構想、主催者(スポンサー)、キャスティング、稽古進行、本番までのトラブルなどなど、舞台を作る上でいまでも直面する「あるある」が散りばめられている。

途中までしか台本がないのに稽古を始めるわけないでしょー。などと思うかもしれないが、稽古中に台本が完成していないことなんてしょっちゅうだ。ひどい場合は初日ギリギリでやっと最後まで完成したなんて話も聞くくらい。スポンサーやプロデューサー、大物キャストが近しい人をゴリ押ししてくるのだって全然珍しくないし、稽古を進めていくうちに「あの役者、下手過ぎるから出番を削ろう」っていう話になることだって普通。さすがに、本番前日に裁判所から中止の決定が下るなんていうことはないだろう……っていうのも間違い!新型コロナ感染者が出て開演10分前に中止が決定した作品があったばかりだし、裁判沙汰で中止になった舞台も過去にはあったよね?100年以上前から、舞台をつくる悲喜こもごもは本質的に変わっていないというわけだ。

基本的には本番に向けてのドタバタ喜劇といった風情なのだが、その中にエドモン、レオ、ジャンヌの疑似三角関係(と家庭人としてのエドモンの葛藤)があったり、役者論や芸術論といった本質的な会話があったり、なによりもエドモン・ロスタンから繰りだされる美しい言葉の数々があったりと、良い意味でゴチャっとした豊かさを感じることができる。某ロシア人有名戯曲家がチラッと出てくるといった仕込みも楽しい。

『シラノ・ド・ベルジュラック』の劇中劇も見ごたえたっぷりで、「大傑作が生まれた瞬間の感動は本当にこんな感じだったのかもなあ」と思わせてくれる。舞台に関係する仕事をしている人、舞台が好きな人にはぜひ観てもらいたい名作!大好き!





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