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ようこそ映画音響の世界へのyuusaiのレビュー・感想・評価

ようこそ映画音響の世界へ(2019年製作の映画)
5.0
政府の無策で緊急事態宣言連発、映画館は罪も無いのにロックダウン。怒りの撤退で配信を見る方も多いだろう。私はサブスク無しで①VPNアメリカ~ダイレクト、②円盤を宅配、➂楽天TV(ダイヤモンド会員は激安)。ミニシアター支援NPOに参画してる身としては、VODはある意味「敵」で悩ましい。だからNetflixのレビューが1本も無い。京都のミニシアター、京都みなみ会館で鑑賞。

映像に対するのは一般的に「音楽」。しかし「音響」にフォーカスを当て、映画化したのは製作と監督を兼ねるMidge Costin、現役のサウンド・コンダクター。この映画の何が凄いと言えば、多くの名作をインスタントするが、著作権や膨大な使用料など、処理すべき問題山積。だが、真意を知った多くの製作者、出演者の協力で見事な長編映画に仕立てた。2019年4月トライベッカ映画祭で初お目見え。地味な内容に反して最後まで拍手が鳴り止まなかった。デジタル・リプレースが当たり前の音響分野でも、職人技は欠かせない。それは陶芸の様に継承される文化財的価値すら有る。

レビューをご覧の方は100%映画好きで間違いない。が、友人を映画館に誘う時どうしてますか?。大きいスクリーンで観た方が面白いよ、コンセッションのお姉さんが綺麗だよ。色々有ると思いますが、私は劇場のサラウンド感。リアルタイムで観てませんが「スター・ウォーズ」エピソード4公開時、冒頭のスターデストロイヤーが頭上からズドーンと現れた時、多くの観客が「振り返った」そうです。それは後ろの音響が今まで聞いた事の無いモノ、本編でもしっかり紹介。難しくないので映画ビギナーの方にこそ見て欲しい。

映画を「聞く」から「聴く」に変わる事請け合いですが、多くの方がムーディ勝山(最近見ないね)の様に右から左へ受け流すだけ、だったかも。秀逸なのは派手な立体音響だけかと思えば「無音」から始まる徹底振り。サイレントからトーキー、モノラルからステレオ、4チャンネルからドルビー、順序立てればナルホドと納得しかないトリヴィアのオンパレード。名作が次から次へと流れるので「なんだ、午前10時の映画祭に行く手間が省けた」"笑"と劇場で思った。映画を観に行くマジックのタネ明かしが此処に有る。

スリラー派なので「神様」Alfred Hitchcock監督「鳥」のパートは垂涎モノ。ヒッチコックの映画と言えばBernard Herrmannのスコアが有名ですが、サスペンスの演出として音を消すと言う行為、反する大音量と言う落差を与える事で、観客の起伏までコントロールする狡猾な演出。家に帰って観直したが、無音と言う「音」の存在を際立たせる事で、小説では味わえない「臨場感」を実現。「鳥」は1963年製作、その前1959年製作「北北西に進路を取れ」唐突に飛行機に襲われるシーンの転換で、無音から轟音へリミッターを解除する事で、心理的な影響まで計算。アクション映画で無くとも、音の重要性を再認識。

やっぱりな、と思ったのは「トップガン」のシークエンス。私は京都から山口県岩国市へアメリカ海兵隊フレンドシップデーへ行く人、2019年にステルス多用途機F-35ライトニングの垂直離着陸。F-16ファイティングファルコンのアクロバット飛行。何れも戦闘機の音って「甲高い」んですよ、ギーン!って。トップガンに登場した可変翼機F-14トムキャットは海軍の戦闘機、つまり空母なので、空軍のサイレンサー(消音装置)は付いておらず、音はとても煩いが、映画の様な野太い低音などありえない。その付け足しがライオンとは。美脚のKelly McGillis、元気かなぁ"笑"。

驚いたのは日本人、シンセサイザー作家の冨田勲氏の功績。先輩に依れば家具調ステレオ時代にCD-4と言う4chステレオが存在。これが1970年の話。CD-4代表作が冨田勲「惑星」ビルボード全米クラシック部門第1位。レコードを聴いて感銘を受けたMichael Jacksonが、来日した時に冨田勲のスタジオを訪れ、全て1人で作った事に驚き、アメリカでの知名度に貢献、感銘を受けたもう1人Francis Ford Coppola監督は、冨田勲に「地獄の黙示録」を依頼したが、日本のレコード会社が断りその代用がDOLBY社。5.1Chのルーツが日本の音楽家とは、目から鱗のトリヴィア。

サイレント時代の映画はヨーロッパ、とくにフランスが図抜けて発想が豊か。それを覆したのがトーキー(映像と音声が同期)、上手く使ったのがハリウッド。芸術のおフランスに対する娯楽映画のアメリカ、音響効果と言うテクノロジーを得て映画界を独占する。ハリウッド音響界のレジェンドと言えばBen Burtt。お手製の効果音フォーリーをサウンド・デザイナーに進化させた先駆者。当時の音響技術者の地位は低くSF映画の金字塔「2001年宇宙の旅」でさえ宇宙空間はクラッシック音楽で誤魔化した。Ben Burttは「スター・ウォーズ」で革命を起こしたが、それを見た映画評論家が「宇宙は真空で音はしない」とクレームを付けたら、Ben Burttはこう言った「俺の宇宙は音が鳴るんだよ!」。

映画の半分は音響で出来てる、年間ベスト級の1本。陛下が御懸念される東京オリンピックの開会式など、観てる場合じゃない!"笑"。