プノンペンの築60年の大型マンションが取り壊される一幕を追いかけたドキュメンタリー。
強制退去を勧告された住民の引っ越しの様子と、インタビューが中心だがストーリーテリングのない話と定点長回し撮影が弛緩していて静かな画作りでした。
報道写真のようなハッとした一枚絵がところどころあるものの衝撃よりも、寂しさや戸惑いを描いているように感じた。
しかし、とうとう解体業者が入り、ほんの30分前に(映画的に)人が住み、過去のくらしの事をあれこれ語っていた場所が瓦礫の山に変わったとき、何か大切なものを見落としていたのではないかという気にさせた。
なにやらぐだぐたと話していた話は、ここの日常の話ではなかったか。
淡々と語っていたクメール・ルージュの悲しい話は、この場所に住んでいた時に起こった事ではなかったか。
弛緩して、退屈に思えた全てがもはや取り返しがつかない事に感じた瞬間、この映画はそういうものを記憶した映画なのだと気づいた。
一つのビルディングを通じて一時代、社会を日常のディテールから描いていった静かに心に残る作品。