ぬっきー

すばらしき世界のぬっきーのレビュー・感想・評価

すばらしき世界(2021年製作の映画)
4.9
ひとことでいって、とっても感動した。
それから、何度か声を出して笑ってしまった。

私が一番感動したのは、この映画の中に出てくる人たちの、人との関わり方だ。
もし私が、と、私は何度もこの映画を見ている間、この映画の中に自分の身を置くことを想像したけど、もしわたしが、あんな風に三上に怒鳴られたら、三上が目の前で怒るのを見たら、その場を丸く収めようとしちゃうに違いないと思った。
それにきっと、もう会わないようにしようとも思ったと思う。
怒鳴られたり、惨めな思いはしたくないし、何とか相手よりも優位に立とうとしてしまいそうだ。
なにせ、相手はずっと刑務所にいた人で、それはつまり悪いことを「したことが」ある人だから。
怖いじゃん、そんなの。

でも、この映画に出てくる人は、みんな三上の言葉を、態度を、というか、存在そのものをものすごくちゃんと受け止める。
口の先から出てくる言葉じゃなくて、ちゃんと、お腹の底から出てくる言葉や想いで向き合う。
だからめっちゃ喧嘩するし、対立するし、ちゃんと、言う。
ヨチヨチと社会を歩き出した三上の手を掴むのは、そんな周りの彼らの態度だ。
そのことに本当に胸打たれた。
これを見ちゃうと、自分は口先だけの会話を1日に何回してるだろって思っちゃいそう。

だからこそ、最後の三上の自分を捻じ曲げるシーンは胸が詰まる。
悔しい、怒るという選択肢の他にかれが知っていれば、三上にもあの場で立ち向かうことができたはずなのに。
それにしても、ほんの数シーンで、三上と花の好きな青年との関係というか、そこに横たわる想いの深さが伝わったということで、そのことにもじんわり感動する。

ラストはこれじゃなきゃダメだったんだ、辛いけど。
こうしないと、私たちは人ひとりの存在の重さを知ることができない。
それほど、今を生きる私たちは、変なフィルターを抜きで人と向き合うということが、なんとできなくなってしまっているんだろう。
ぬっきー

ぬっきー