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すばらしき世界の小のレビュー・感想・評価

すばらしき世界(2021年製作の映画)
4.5
「マジガチで定住社会に適合すると病気になる。」

鑑賞後、かつて某映画館で観た『サーミの血』のトークショーで宮台真司先生が話していた言葉が真っ先に思い浮かんだ。

「宮崎学の著書にあったが、被差別側は一般ピープルに差別をやめろ、同じように扱えというのが普通だが、そもそも一般ピープルは"クズ"なのだから、むしろ、今ある感受性や作法を守るべきではないのか、という。」

『サーミの血』は「一般ピープルに同化するなというのが妹であり、同化するしかない、同化したいというのが主人公だ」ったが、本作は主人公が同化するかしないかで葛藤する。

解決方法として、宮台先生は定住社会に適合したふりをせよ、つまり「なりすませ」と説いていたけれど、生真面目で一本気な主人公は、なかなか変わろうとしない半面、こうと決めたら、とことん突き詰めるタイプらしく、結局はマジガチに適合しようとした。

その結果どうなるのか、そして、現在の社会がどの様なものなのかを、とても皮肉たっぷりにオチを付けていて、やるなあ、と。

「定住社会にガチで適合するとクズであることを忘れ、楽に生きられると思うかもしれないけれど、定住社会は構造的に明らかな矛盾を抱えている。」

弱者、少数者が差別され暴力を受けていても、総論で反対し、個別には見て見ぬふりをするのが「定住社会」の「一般ピープル」。そうした一人一人の心のオリ(矛盾)が少しずつ社会に溜まっていき、「自国第一主義」とか言いだすリーダーを生み出してしまうのかもしれないね。
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