西川美和監督最新作「素晴らしき世界」。
西川監督の視点が個人的にはとても好ましい。
人生の大半を刑務所で過ごした元殺人犯の男三上正夫を通してみる現代のあり方描く。役所広司演じる三上は、ある意味未熟な大人なのかもしれない。やくざあがりですぐ手がでてしまう。物事を解決する手段の最たるものが暴力である男。一方で、確かに悪い人ではない（むしろ、彼らの世界でいう人として間違ったことは許せない）が、悪いことをしてしまう男。役所広司が三上の人が良くて優しい部分と凶暴な部分、それらが共存しいつ暴発するかわからない危なっかしい三上を演じてくれた。役所広司演じる三上は見ている側もどこか否定しきれない、嫌いになりきれない部分がある。だからこそ、ラストは津乃田同様見ている側の心も揺さぶられるのだろう。しかし、他の映画を引用するのもなんだけれど同時期に公開されている某ヤクザの映画同様、もしかしたら、これでよかったのかなという気もする。
三上をとりまく人たちも実に興味深くて、恐らく今作に描かれていないだけで、それぞれの人生が垣間見えるようだった。
正夫に取材対象として近づき徐々に関係を深めていく、津乃田を演じた中野太賀もとても良かった。また、三上の身元保証人となる三上夫妻や、行政側の立場で三上と関わる井口等、ある時は温かく手を差し伸べ、ある時は厳しい現実をつきつける。この映画において、ささやかな喜びや多くの弱さや葛藤を、それを各々の役者がぶれることなく見せてくれたと思う。
途中、どうにもうまくいかない三上が周りに助けを求めるのだけれど、誰も相手にしてくれない描写がある。それで三上もいささかやけを起こしてしまうのだけれど、別に三上に限らずこういうことはあると思う。人はひとりでは生きられない。けれど、ひとりの為に生きているわけではなく、それぞれの世界を持っている。助けを求めた時、すぐに手は差し伸べられないかもしれないが、助けてくれる人はいるのだと思う。
そうして手に入れた日々を守るために、三上は最後に今までにはしなかった決断をする。
あの場面は私たちも生きていくうえで遭遇することがある出来事だ。そして、多くの人が三上と同じ選択をするように思う。それが、広い空の下で生きるもののある種生きるスキルかのように。しかし、それが苦しくなる時がある。
それが広い空の下に広がる、素晴らしき世界を生きるために必要なのだとしたら、この素晴らしき世界はなんともだ。そんな、現代を生きるということを、清濁併せ呑んだ視点で善も悪も双方の姿を描いたこの映画。今を生きる私たちだから感じられることがあるように思うし、考えさせられる映画になっていると思う。
