罪を犯した主役と、平穏に生きてきた人々には決定的な溝があり、互いをまるで違う生き物とすら感じる。
しかしそれが徐々に脱構築されていく様はとても美しくて愛おしくて、永遠に続いて欲しい時間だった。
主役は醜い光景をたくさん目撃するが、周囲の人々を通してだけは、すばらしき世界を目撃する。
逆に周囲の人々もまた、醜い世界の一部だと思っていた前科者の主役が、懸命に生きようとする姿を通して、すばらしき世界を目撃する。
今作は役者が素晴らしく、役所広司が体現する三上という男は、『粗にして野だが、卑ではない』を地で行く溶けた時代を生きる男だった。
北村有起哉が「ヤクザと家族」に続いて目が離せない演技を。
仲野太賀は受け手と作り手の間に存在していて、彼がいなければ作品として成り立たない。
長澤まさみは短い出演ながらフィジカル、メンタル双方の強靭さを表現し人物のバックボーンを受け手に想像させている。
西川美和の作品として予想通りウェルメイドに作り上げていたが、せっかく役所広司を起用したのだからある程度の逸脱は欲しかった。贅沢な注文ですが。
