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すばらしき世界の会社員のレビュー・感想・評価

すばらしき世界(2021年製作の映画)
4.0
生きづらさを抱える全ての人へ。


極道の道に入り、ついには殺人を犯してしまい13年もの長い間服役した主人公。つい頭に血が昇り自らを制御できなくなる性格ゆえに、服役中も頻繁に問題を起こすほどであった。
社会復帰を果たすもその道は険しく、困り果てていた頃にあるメディア関係者から取材を受けることになる。最初は幼い頃に生き別れた母を探すという名目であったが、その実、カタギに戻るために苦労するその姿をドラマチックに描こうとするものだった。
弁護士、スーパーの店員、ケースワーカーなど、周囲の人々の助けを受けつつも、持ち前の性格から軋轢を生んでしまい、後悔する。ついにはかつて関わりのあった組関係者に助けを求めてしまう。


本作の特徴は、やはり現代における彼らのリアルな生きづらさを描いたことにある。上述の通りヤクザの家に転がり込んだものの、そこで特に大きな事件が起きるわけではなく、金銭トラブルから大きくなった騒ぎに巻き込まれないよう逃げきった。暴対法により様々な社会的制約を課されて以降、もはやヤクザで食っていくことはできない様子が描かれる。
雇用先も簡単には見つからない。刑務所で極めた縫製スキルを活かせるはずもなく、もうひとつ得意だった運転も、免許をイチから取り直すところからである。高齢となった服役者にとってそれは並大抵のことではない。
しかし主人公は壁にぶつかりながらも懸命に生き抜こうとする。そうした姿に周囲の人間は心打たれ、支援の手を差しのべる。母の手がかりを探りに向かう場面は、好奇のレンズを通してではなく、生身の人間としてその刻まれた傷を引っくるめて主人公と向き合うという、印象的なシーンであった。


鍛え上げられた几帳面さを生かし、ありのままの素性を明かすことで、福祉施設に腰を据えることになる。皆が就職を喜んでくれたものの、そこは主人公のような犯罪者や軽度の知的障がい者をも雇い入れる現場であり、直接的にも間接的にもいじめが存在した。
主人公は真っ直ぐ過ぎる心を持つために、これまではそうしたいじめを見逃す事が出来ず、つい暴力的制裁という手段に走ってしまう。しかし周囲の助けを得てここまで戻ってこれた恩に報いるためにも、耐え忍ぶ。嫌なものには時には目をつぶらなければならない、それが社会というものだと自分に言い聞かせるかのごとく。

コスモスの花は生命力が強く、台風の中なぎ倒されてもまた真っ直ぐ起き上がる。コスモスを渡すシーンは、嵐のように降りかかる社会という困難さの中でも、美しい心を持ち生きる者の強さを象徴するようであった。
しかしそれに止まらない。台風に備え事前に刈り取ってあげたように、彼らには周囲の人々からの手助けが必要なのである。生い立ちや障がいはもはや問題ではなかろう。ただ今の彼らが精一杯生きようとする、その美しい姿について、私たちは少なくとも理解をし、手を差し伸べる必要があるのではないだろうか。
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