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すばらしき世界のmegurosのレビュー・感想・評価

すばらしき世界(2021年製作の映画)
4.7
人生の大半を刑務所で過ごしてきた元殺人犯の三上。彼は瞬間湯沸かし器のように怒りっぽく、暴力に訴えるしか解決策を持たない男だ。しかし同時に、困っている人を見過ごすことができないような優しさも持ち合わせていて、総じて社会で生きていくには純粋で不器用すぎる男。

この映画ではその彼の視点から、この社会の暴力性と残酷性とが描かれる。シャバに出てもヤクザとの繋がりがあれば”反社”として人権をも容赦なく奪い取る暴力装置としての社会の姿は、東海ドキュメンタリーの「ヤクザと憲法」でも描かれていたが、この映画で特に印象的だったのは、そうした社会復帰のシステムが準備されているかどうか?ではなく、むしろそこに生きる人々の態度だ。

劇中、「三上さん、僕たちはそんなに真剣に生きてないんだ」のようなセリフがあるが、我々は本当にそれでいいのだろうか?という問いが浮かび上がる。喧嘩を見て見ぬフリをするのが正しいのか。目の前で人が侮辱されていても、それをうっすらと笑い飛ばしてその場の空気を取り繕うことが正しいのか。

やさしい人はいる。空も広い。しかし、その”素晴らしき世界”は三上さんが生きていける世界ではなかったのだと感じるし、我々一人一人の中に生きる”三上さん的なる魂”は死んでいないか?そう問われた気がした。

三匹シリーズからのファンとしては役所広司を延々と眺めていられるだけで眼福。仲野太賀もこれからの日本映画を牽引していく力を示していた。

特に面白かったのは長澤まさみの使い方で、刺激的な映像を観たい、過激な場面を目撃したいという実にテレビマンな、共感しづらい最もらしさ、正しさを全身に纏っていて、この使い方があったかと膝を打った。
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