べるーし

すばらしき世界のべるーしのレビュー・感想・評価

すばらしき世界(2021年製作の映画)
5.0
邦画よ、一体どうしたというのか?

下町で暮らす三上は頭に血が上り易いながらも真っ直ぐで心優しい男だが、同時に元殺人犯でもある。そんな彼を番組のネタにしようと寄って来るテレビマンだが...というストーリー。


実は先月に観ましたが、感想を纏めるまでに少し時間が掛かって今に至ります。取り敢えず、まごう事なき2021年映画暫定ベスト。これぞ映画!もう何もかも素晴らしかったです。これこそが劇場で観るべき映画です。おかげでどこから何を語れば良いか迷うくらいw

まず何と言っても今作は「ヤクザと家族」にも通じる、元極道の反社問題を扱ってるワケですが...重いテーマをコメディ調に描いているのが驚き。そこが兎に角意外でしたね。なので似て非なる、対照的な作風です。

で、もっと対照的だと感じたのは元極道を反社とするこの世全てを批判するのではなく肯定的に描いていた点。先程挙げた作品ではヤクザへの待遇や暴対法を批判した内容でしたが、今作は真逆で温かさすらもあるくらい。要するに今作は全員善人という、リベラル的な批判ではない辺りは女性監督ならではで、男性監督にはあまり出来ない事でしょうね。

役所広司の演じたキャラは本当に良いキャラクターで。真っ直ぐに生きる真面目さ、時代に取り残された男の哀しさが沢山詰まっているんですよね。そこが魅力的で、それを見事に演じる役所広司の演技力に脱帽。ヤクザや任侠への理解が薄れた今だからこその彼の生き様が強調される辺りも然り。彼の精神を後世に伝える若者が、とかではなく三上こそが本当の真面目さを知る最後の一人の様に描かれているのもまたいいですね。

それに、劇中で一匹狼であった事が台詞以外でも語られていて、そこもまた映画としてとても上手かった。刺青が中途半端に終わっている辺りとか、背中の傷とか。

ただ、幾らコメディ調とは言えどもやはり現実に通じる事が描かれる。そこでやっぱりこの世は狂ってるんじゃないかと疑問に思う。しかしカタギである我々にとっても狭く生きづらいシャバには、堪えた先に小さな幸せがあるんですよね。だから生きて行ける。だからこの世界は素晴らしい。そんな温もりがある今作を涙無しには観られない。

説明的な、無駄な要素の一切無い今作、そうなんですよ、世の中に必要な映画はまさにこれです。ただ、若者な筆者にとってはまだまだ理解が足りない点も多く、人生経験を沢山積んだ人程今作には涙するんだろうな〜...とも感じました。俺にも今作を理解出来る日が来るのかもと思うと待ち遠しいばかりです。

最近邦画がキテますね。今が一番幸せかも。
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