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すばらしき世界のろくのレビュー・感想・評価

すばらしき世界(2021年製作の映画)
4.0
西川美和は新たな倫理を作れるか①

新シリーズです。西川作品を追って行きます。何作かは見ているんだけど今回初めての作品も。これなんかもそう。西川作品を見るといつも(と言ってもそこまで観てないけど)倫理のことを考えてしまいます。

さて今作。主役の役所は確かに「犯罪者」です。でもそれはどこまで悪いのでしょうか。確かに犯罪は悪だ、そう思います。でもそれを「してしまう」人がいるのです。それはつい手が出てしまったりする人、自分の気持ちをコントロールできない人、深く考えるのが苦手な人。

僕らはそんな人を忌避してきます。でもそれが病気と言われたら?悩みますよね。病気の人は「病気だからかわいそう」で犯罪者は「犯罪をしているんだから許してはいけない」。でも病気だから急に行動をコントロールできなくなったら。いや被害者の気持ちを考えろ。病気と犯罪は違うだっろ。そんな意見もあるはずです。でもそれは「全て」でしょうか。僕は悩んでしまいます。個別個別の事案を無視して「わかりやすい」(犯罪者=悪)ことばかり考えてしまう、でもそれは本当に正しいのでしょうか。

いや全ての犯罪者を「許せ」といっているのではありません(僕らはキリストではないです)。ただ少し「色眼鏡」を外すことは大事かもしれないです。「すばらしい世界」はそのまま色眼鏡を外す手助けをする映画かもしれません。六角精児は彼の意見を受け止めます。北村有起哉はは彼のために誠意を持って付き合います。梶芽衣子や橋爪功は彼を思いっきりの優しさで包みます。そして仲野太賀は。

でも彼は「人を殺している」のです。本当にその優しさは正しいのでしょうか。僕は悩んでしまいます。そしてそれは時間というタイムラグとともに悩みは膨れるんです。つまり「過去に起きたこと」でいつまでその人は断罪されるかということです。大事なのは全て100か0で語らないということかもしれません。僕らは「わかりやすく」ないことに直面すると判断を停止します。そして勝手に「わかりやすい」物語を求めてしまいます。でもそれは僕らが「考えない」ようにしているだけではないでしょうか。西川は考えることの重要性を僕らに教えてくれているのかもしれません。そして「過去」ではなく「今」を大事にすることも。少なくともこの映画の最後15分は僕にとって「すばらしい世界」だったんです。

※生徒でもたまに直情的な子がいます。明らかに損しているよなぁと観て思うときも多々ありました。でもこんな僕と話していてもたまにとんでもなく優しい顔で話すときがあるんです。困ります。あの笑顔に僕は騙されているのでしょうか。それともそれが本当なのでしょうか。そんな風に二項で分けることが間違っているんでしょうか。僕は最近、「二項で考えること」が間違いだと思ってます。
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