カツマ

プラットフォームのカツマのレビュー・感想・評価

プラットフォーム(2019年製作の映画)
3.5
地獄のように底が見えない。転落するのは現世の理、平等という言葉の虚しき響き。そのエレベーターには上りボタンは存在しない。全ては下り、落ちて、落ちて、堕ち続ける。どうしたら這い上がれる?もがいて足掻いて喚いても、果たして何かが変わるのか?これは正に社会と宗教の縮図を、あまりにもグロテスクに表現したケースであった。

スペイン産、この異色のシチュエーションスリラーは社会の構造を皮肉に描き過ぎて、胸糞映画の部類へと闇落ちした地獄絵図のような作品であった。トロント国際映画祭にてミッドナイトマッドネス部門の観客賞などを受賞した本作は、間違いなく一般受けを1ミリも狙っていないであろう怪作であり、観る人にとっては苦痛を誘発しそうなジャンルの映画でもある。そのエレベーターのような監獄の中で行われている、狂気の沙汰とは果たして何か。主人公はそこに奈落の底を見る。

〜あらすじ〜

ゴレンはある日、四方をコンクリートで囲まれた密閉空間で目覚めた。そこにはもう一人男がおり、その後、ほどなくして空間の真ん中に食べ残しの食事が降りてきた。フロアには48階層とあり、上下のフロアにもそれぞれ二人ずつ男がいるという構造。そこは巨大な監獄であり、上の階層であればあるほど手付かずの料理が食べられる、という仕組みであった。その仕組みを説明した同室の老人トリマカシは、ひねくれ者だったが、ゴレンとは不思議とウマが合っている、ように思えた。囚人は一つだけ持ち物を持ち込むことが許されており、トリマカシはサムライ包丁を、ゴレンは本を持ち込んでいた。上の階の食べ残しを漁るような時間が過ぎ、初めは探り探りだった二人の関係も徐々に良好なものへと変わっていく。だが、ある日、モクモクとスモークが焚かれ、目の前が見えなくなった時、ゴレンはベッドの上に縛られ、動けなくなっていた・・。

〜見どころと感想〜

エレベーター状の『穴』を舞台にした、キリスト教から連なる現代社会の暗喩のような映画である。そこにはカースト制度のような分かりやすい上下が存在し、上の者は富み、下の者は飢えて死ぬ、という極端なまでの真理が表現されている。この強固なメッセージに付随して強烈なのが、今作のグロ描写。特にカニバリズム系が無理な人にはオススメできない作品で、淡々としたゴア描写が胸糞の悪さを助長する。底辺の表現方法としてダイレクトな手法であるが、出来れば使ってほしくない描写でもあった。

配役は皆、スペインの役者さんのようで、全員が初見であった。主人公の風貌を恐らくイエス・キリストに似せており、本を持ち込む、という点でも暗喩になっていると思われる。そして、印象的な役柄で登場するのが灰汁の強い老人、トリマガシ。ソリオン・エギレオールというこの俳優は、ギョロ目が印象的でその演技もインパクト抜群。すぐに退場かと思いきや意外とメインキャラなのも嬉しい。

今作は性善説、性悪説を唱える以前に、人類の歴史そのものをメタファーとしているだけに厄介だ。縦割り社会、キリスト教の歴史、分かり切っているだけに直接的に表現されると胸糞の悪さが凄い。それだけに残念だったのは今作のメッセージ性の説教臭さ。メッセージを発信しながらも、映画としてもう少し面白くできたら、、という惜しさが残った作品でした。

〜あとがき〜

本来は劇場で観たいと思っていた作品でしたが、見逃してしまい配信での鑑賞となりました。結果として、配信で良かった、というのが正直なところです。虚無が押し寄せるシーンが長く、ジャンル的には間違いなく胸糞映画ですね。それだけに観る人を選ぶ作品。テーマ的に似ていると言われる『スノーピアサー』の方が個人的には断然好みでした(笑)
カツマ

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