るるびっち

ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像のるるびっちのレビュー・感想・評価

3.8
人も名画も見抜けるか否かが大事。
それは、相手をどこまで理解しているかということ。

老美術商は商売下手だ。一見、お人好しで気が弱いせいだと見えるが違う。
絵を見抜く力はあるが人を見抜く力がないのだ。その為、強欲な客や同業者に打ち負かされてしまう。
絵画には目利きだが、人生においては盲目なのである。

或る日、音信不通だった娘から孫息子を預かる。孫の職業体験の為、店の手伝いをさせてくれというのだ。
そんな折り作者不明の絵が出品される。彼はそれが名画だと直感する。オークションハウスの強欲な連中さえ見落とした絵。老美術商は人生最後の賭けに出る。
彼には身に余る高額取引で、未経験の高値でセレブに絵を売ろうとする。
その絵は本当に名画なのか?
そもそもサインの無い絵なのも怪しい。
名画を巡る葛藤の中で孫との交流がもたれる。

この映画では、老人、娘、孫の三人が互いを理解していない。
老人は初め、娘と孫を理解せず、娘は息子(老人には孫)と父を理解しない。離婚して独りで苦労して息子を育てている彼女には、父親の美術商の仕事はただの道楽にしか見えない。絵にのめり込む父に対し彼女は寂しい思いをしただろうし、離婚での夫への恨みを父親の無責任さにぶつけているようだ。
これは家族にはよくある話だ。
親は解ってくれない。逆に娘・息子は解ってない。
どの家庭でもある行き違いではないか。

それが、人生最後の大勝負の時に裏目に出る。
娘は絵の価値が解らない。それ以上に、絵に人生を賭けた父親が解らない。
娘は子供の頃、絵が好きだった。その絵を父親が売ってしまった。
彼女はその時から、絵画と関わる人生とはサヨナラしたのだろう。
好きな絵と別れた時に、父の生き方とも決別したのである。

老人は大儲けが目的ではない。地位や名誉より、自分の生き方が正しかったか、その答えが知りたかったのだ。
しかし知り得るのは、娘や同業者を自分が如何に理解していなかったかということ。目利きどころか、盲目だったのである。
見るからにお爺ちゃんの主人公が、あの年齢で次々と自分の誤りに気付かされるのは痛々しい。

最後に彼は家族をキチンと理解できたのか。そして、家族は彼を正しく評価できたのか。
彼が求めた答えが、意表をついて現れる。

ハリウッド映画みたいに孫の機転でスカッと一発大逆転ってならないのが、ヨーロッパ映画の良さでもあり悪さでもある。
北欧の天気と一緒で、ずーと曇り、快晴にならない(イメージだけど)。
けれど、老人の心はどうだったのか?
彼の下手な口笛が今も耳をついて離れない。
るるびっち

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