柏エシディシ

第七の封印の柏エシディシのレビュー・感想・評価

第七の封印(1956年製作の映画)
4.0
映画を観ない人でも見たことがあるであろう海岸でチェスをする騎士と死神のワンショット。
そのアイコニックなビジュアルと巨匠ベルイマンの世界的名声を決定的にした傑作という評価から、勝手に重厚で難解な作品を想像してました、が。
ワーオ、誤解を恐れずに言ってしまえば、むっちゃポップでキャッチー、面白いじゃないですか!

もう死神の登場の仕方からして、もったいぶらずケレン味もなく「や、どうも」って感じでさっくり出てくるところからしてツボる。
「<死>だよ。いつもそばにいたよ」「うん、知ってた。チェス好きだろ?やる?」っていう流れも、なんかシュールで好き。
中期の陰鬱なベルイマンから入門した自分としては、作品全体に流れるそんな諧謔的な、達観したユーモアがいい塩梅に効く。

フィルマークスの他の方のレビューだと、キリスト教云々という言説が多いですが、本作に関しては多くのベルイマン作品よりもシンプルに「死」と「生」の物語として十分理解し易いと思う。
もちろんキリスト教的モチーフは本作の根幹にある重要な要素ではある。
しかし、必然ながら「死」に関して考えない人間なんていない訳で。宗教や文化に拘らず。
そこにビジュアルとイマジネーションを刺激する寓話を紡ぐ「映画」という手段で核心に迫ろうとする芸術家ベルイマンの妙技。

マックスフォンシドーの毅然とした佇まいと、その従者を演じるビョルンストランドのシニカルさの対比。
予想もしていなかったコミカルシーンと人間の怖さや危うさを感じさせるシーンのコントラスト。
そのほかに正と俗、生と死、喜劇と悲劇、真逆の要素を自在に織り交ぜながら、観る人によって解釈や想像の余地を膨らませられる視点がふんだんに盛り込まれていて、やっぱすげぇわぁぁベルイマンと感動することしきり。

クライマックスの「客人」を迎えた一同のシーンと、遠景に「死の舞踏」を踏む人々を眺めるショットは、凄すぎる。
こういうものを拝むために自分は映画を観ているのだと思う。
柏エシディシ

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