ふみ

花束みたいな恋をしたのふみのレビュー・感想・評価

花束みたいな恋をした(2021年製作の映画)
5.0
私は私の好きを花束にして、ずっと飾っておこう。この世界のどこかの麦と絹に幸あれ。
幸せのハードルってなんなんでしょうか。それは高ければ高いほど辛いけど幸せで、低ければ低いほど楽しいけど苦しいんだろうな。

「野球選手になりたい」「ピアニストになりたい」「アイドルになりたい」そんな夢の妥協点を人はどこかでみつけ、「御社のために」「社会貢献のために」就職をする。「白馬の王子様との出会い」「映画のような燃える恋愛」はないと知り、「心が落ち着く」「安定した」妥協点を見つける。

映画もバンドも漫画も本も、どこかに逃げ出したいのにどこにも居場所がない、孤独で退屈な私の味方だった。大学には同じような人が沢山いた。「その歌のここが好き」「私も同じこと思ってた」「この映画のこのシーンが好き」それだけで、孤独は一瞬にして消えた。
序盤、カラオケでクロノスタシスを歌い大通り沿いをアサヒドライ片手に歩く2人。それ野方に住んでた頃の私じゃんって泣いた

運良く好きを仕事にできたけれど、クリエイ何度も挫折をして自分の才能のなさと頭の悪さに精神が壊れそうになった、納得できないことも沢山あった。もう逃げ出して社会人らしく、好きは諦めて生きていきたかった。
本の数は減り、服装も変わり、すっぴんでは歩けなくなり、聴く音楽も変わった。
そんな矢先だったから。
好き、だけは持っててもいいかな。あの日図書館で見つけた一片の言葉とか、深夜何本も連続で観た映画とか、松竹から出て安酒で議論したこととか、すっぴんなんて気にしない深夜の散歩とか、たまらなく好きだったロックバンドとか、クリームソーダの喫茶店、キャッシュレスなんて関係ないパン屋さん。
そういう愛おしい記憶だけは、ずっと大切にして大人になっていいかな。
私を救ってくれた大切なカルチャーたちを、花束のようにそっと、抱きしめてていいかな。

もうあの野方で過ごしてた頃にどんなに戻りたくても胸が苦しくても、戻れないのは知ってるから。大学生にはもうなれないのはわかってるから。だって、私絹ちゃんみたいにはなれないから、麦くんだから。やっぱり家族とかお金とか考えちゃうけど、でも自分の好きだけは大事にしていこう。
パーティーはいつか終わるけどね、ならずっとずっとパーティーをしてればいいんだと思う。時に休みながら自分のペースで。

2人は出会うべくして出会ったのに、何度も運命だったのに、こんな人もう出会えないのに。これでよかったんだろうか。
新しい恋人なんて、ふっつーなんだろうな、もう新刊が出ても、新作映画が公開されても、分かちあえないんだよ、それでいいのって2人を説得したくなった。5年も一緒にいたんでしょって、納得できなくて悔しくて心が痛くて、絶対夢に出てくる。26だから別れたのかなー28歳だったらもう別れなかっただろうなー。最後が宮下パークなんて、あの後ろ姿なんてずるい。

全部のシーンも、演出も、インテリアも、全て2人を表してた。
麦と絹はきっと、わたしの近くにも沢山いたんだろうな。どうか2人がこの先もそれぞれどこかでずっと幸せでいて欲しい。
1日経って思ったけど、この2人は本当に趣味以外真逆な2人だったんだろうな。だけど趣味嗜好が同じだから、ずっとずっとやってけたんだろうな。

2015年大学に入学した私たちが、
2021年社会人2年目としてこの映画を観ることができて、本当に本当に、出会えてよかった。
ふみ

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