Yoshishun

花束みたいな恋をしたのYoshishunのネタバレレビュー・内容・結末

花束みたいな恋をした(2021年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

"始まりは、終わりの始まり。"

今年1月に公開され30億円超の大ヒットを記録した、菅田将暉×有村架純共演のラブストーリー。学生時代、偶然終電を逃した縁で付き合い始めた麦と絹。価値観も趣味も似ている二人は、幸せな時間を過ごしていたが……。

『何者』でも共演済の菅田有村コンビだけに、就活が絡むことでそれまでの生活が狂い出す下りはスリラーのよう。趣味を捨て生活をするために仕事に励む麦、自由を尊重し好きなことを仕事にする絹。似た者同士が働くことで段々すれ違っていく様は、今の日本労働社会に対する若者の労働意識を浮き彫りにしているみたいだった。

また、2016~2020の5年間の恋愛模様が綴られているが、実際に起こった事件や当時社会現象となったものまで実名で登場する。本当に麦と絹カップルが実在したかのようなリアリティーを出すための粋な演出であり、また自分の好きなものに対するマウントの取り合いが中々痛々しく描かれていた。『ショーシャンクの空に』はマニアックという発言にあからさまに嫌悪感をみせたり、ワンオクを聴くのではなく聴けると発言したりする。リアリティーを出すと同時に若者の未熟さをも同時に描くという離れ業を成し遂げている。

また、菅田将暉と有村架純で当て書きされたのも頷けるほど、二人の本物のカップルのような自然なやり取りが素晴らしい。出会い、そして別れまで自然体に演じられていてかなり良かったと思う。前半と後半で同じ事をしているのに感じ方や行動が真逆になっている演出も良かった。

しかし、現実とリンクさせるリアリティーある脚本だけに、どうしても演出として納得できない部分はある。麦は学生とは思えない程物が揃いすぎている部屋に住んでいる等、本作はキャラクターたちの金銭感覚がまさに狂っているといえる。金が無いという割には、平気でスタバ行くし、あっさり同棲を開始(どう見ても高そうな部屋)する。本作はどこにでもいる普通なカップルというよりも、ある程度収入の安定したイケイケカップルが描かれていて好みではなかった。
また、就活から関係がこじれていく展開ではあるが、正直展開としてはありきたりな部類に入ると感じた。

上記のような気になる部分もあるが、他の恋愛映画よりも優れていると感じるのは、やはりクライマックスの別れに尽きる。二人より後に入店してきたカップルに自分達を重ねてしまい涙するシーンは、本作で最も描きたかった部分であるように思う。あの頃、ただ純粋に仲の良い友達として同じ趣味を語り合うあの時間が幸福だったのだろう。これは麦の台詞からもとれる通り、結婚後の相手への恋愛感情の変化にも繋がっていく。法的に夫婦となり時間と共に好きという気持ちも薄れていくなかで、ただ何となく一緒に過ごす感覚。日本版『ゴーン・ガール』のような恋愛と時間の残酷さが露になっていて、かなり印象深い。

周囲が高評価だったのもあり期待しすぎてしまった面もあるが、近年の若者の恋愛観に最も近い描き方をしていたため、多くの共感を呼んだのも頷ける。あとは好みの問題だが、観て良かったと素直に思える作品だった。
Yoshishun

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