ジャン黒糖

花束みたいな恋をしたのジャン黒糖のレビュー・感想・評価

花束みたいな恋をした(2021年製作の映画)
4.5
U-NEXTに入っていない自分は今年初めの話題作、ずっと観たくって未見ながらBlu-ray購入して鑑賞!!

本作、先に結論からいうと今年まだ70本程度しか映画観ていないなかではぶっちぎりで、自分の好きな映画のタイプに今年1番フィットした映画でした!!

【物語】
それぞれに自分と合わない冴えない日常を過ごしていた大学生の麦と絹はある日、終電を逃した明大前駅で偶然出会う。
会話していくうちに、お互いの趣味の話で花が咲き、三度のデートを重ねていくうちに付き合い、同棲することに。
最初こそ最高の相性であった2人だが、仕事や周りとの人間関係のなかで徐々にすれ違っていく…。

【感想】
青春映画でいえば何かを成し遂げる代わりに何かを失う映画、恋愛ドラマでいえば倦怠期カップルや離婚する夫婦を描いた映画の方がどちらかといえば好みの自分としては、本作は実にタイプの映画だった。
と同時に、”20代の男女”を描いた作品として、他の好みの作品には実はなかった間口の開けたエンディングとなっていて、めちゃくちゃ感動した!

恋愛観、仕事観、人生観。
観る人それぞれが培ってきた、様々なフィルターを通して観て語ることのできる本作。

ちなみ、20代前半のころの自分といえば、大学も就職も恋愛も見栄を張りがちな部分があった。
いま思えば20代前半のときに感じていたコンプレックスから来る見栄が、結果的にいまの”自分らしさ”を形成してくれたように思う。

30代になって、たしかに昔より自分のやりたいこと、目指していることに地に足のついた自己実現ができるようになってきたと思うことがある。
ただ、自己実現できてきている一方で当然できてないことも多い。
もし大学時代、キャンパスで"キラキラ系"の友達と最初から距離を置かずにいたら、もし就活で見栄を張らずに好きな業界職種に就けていたら、もし学生時代、当時の彼女とちゃんと向き合うよう歩み寄っていれば、いまどうなっていたかと思うことがいまでもある。

こうしたいくつものタラレバがある程度積み重なってきたからこそ、映画で何かの成就と引き換えに何かを失うシーンとかを観ると毎回グッと来てしまう。
『スーパーバッド 童貞ウォーズ』や『ブックスマート』では、主人公らが次のステージに上がる=それまでの親友同士の関係性ではなくなる切なさにグッと来てしまった。
『ララランド』では夢に向かって自己実現する代わりにあるものを失った現在と、あったかもしれない"もしも"を映画らしい表現で描くラストに号泣。
『ブルーバレンタイン』では最終的には悲しい選択肢を採るしかなかった夫婦の、それでも2人の夫婦生活はこんなにも美しかったじゃないか、とフラッシュバックして見せるエンドロールにむせび泣いた。

前置き長くなったけど、そんな私個人の好きな映画の系譜に、本作はもう観る前、予告編の時点で合致していた。笑

麦くんと絹ちゃんは、何か決して劇的な出来事があって最終的な決断に至った訳ではない。
互いが互いに何を求めているのか。そしてその価値観は恒久的に不変な考え方なのか、変容し続ける感情なのか。
この微妙なボタンの掛け違いが、仕事観・人生観・家族観を通じて積み重なって生じた結果なのだ。
たしかに麦くんは立て直そうとした。絹ちゃんもそれを受け入れようともした。
だからこそ、最後のファミレスシーンで、いまの自分たちにはすっかり無くなってしまったけど、向こう側に座る若いカップルには持ち合わせている、とある感情にはご多分にもれず号泣。

やー、、『何者』でも互いのすれ違いが原因で別れた菅田将暉と有村架純カップルが…ここでも…やめてくれ…泣


ただ、この映画が、上に挙げた自分の好きなタイプの他の映画と違った部分で自分的に本当に素晴らしいと思ったのは、この2人の決断に対し、とても開けた解釈の余地を残して終わらせるのだ。

絹ちゃんの転職先、自分の好きなことに近い仕事というけど本当にそれ、絹ちゃんのやりたいことなの…?
押井守を敬愛しているときの麦くんと、仕事に夢中でパズドラに時間を空費する麦くん、どちらの方が自分らしい?
麦くんのお相手、絹ちゃんのお相手、お似合いか…?
と、気になって言いたくなってしまう部分もあるけど、そこが逆にリアルというか。

2人はそれぞれ、これからも誰かと付き合った別れたを繰り返すかもしれない。仕事がイヤになって転職を繰り返すかもしれない。もしかしたら2人はもとの関係に戻るかもしれない。
でも、その繰り返しこそが、まさに自分が経験したように、”自分らしさ”を形成していくんだと思う。

それこそ『ララランド』のラストのように麦くんと絹ちゃんそれぞれの何年か先の姿を見せることであの頃の輝きと対比して見せる突き放したラストを自分は期待して観ていた。
ただ本作はそういった未来の姿=閉じられた選択肢を見せるのではなく、冒頭の伏線回収にもなるGoogleストリートビューひとつで、むしろ2人それぞれの可能性は広がっていることを提示して終わらせる。
見事なラスト。


本作、小説・映画・音楽・舞台等、様々なサブカルが出てくるけど、これらワードは世界と隔絶して2人だけの完全一致した共通言語としての時間の経過をわからせるファクターと思うので、別にわからなくてもいいかなと。

ただ、劇中出てくるワードのなかでもわかっていることでハッとさせられたのは、”SMAP解散”だった。

私事の話になるが、SMAPが解散した2016年末といえば、いまの奥さんにプロポーズしたのがその時期だった。
小さいころからずっとSMAPが好きでライブDVDやアルバムも持つほどだったし、毎週月曜22時はスマスマを見ていた。
そんな”いて当たり前”だったSMAPの存在が当たり前でなくなった出来事はとてもショックだったし、自分史的には結婚することでそれまでの当たり前と決別して新しい”いて当たり前”の家族を築いていく決心をする境い目の時期でもあったので解散はとても印象的な出来事だった。

劇中、ナレーションで絹ちゃんはこういう。
「2人でSMAPの『たいせつ』聴いたなぁ。SMAPが解散しなかったら私たちも別れなかったのかな」

曲こそ劇中流れないが、一部引用すると以下のとおり。

「Everything is oh My君となら
越えていけそうな気がするよ
たいせつだって思わなきゃ
みんなひとりなんだ
不安なんだ
愛が支えなんだ」


SMAPの解散は、単なる芸能界のニュースに過ぎないかもしれないけど、自分にとってのSMAPがそうであるように、外的環境を自分たちに重ねて見ることって実人生で全然あるよね。

脚本手掛けた坂本裕二さん、直近の大傑作『大豆田とわ子と三人の元夫』でも会話劇の積み重ねや言葉選びの上手さが素晴らしかったけど、本作でもまぁ見事というほかない。
一見物語上のストーリーに直接関係ないような会話をしているようでいて、実はそれが2人の距離が近づく瞬間であったり、逆に離れていくことを感じさせる会話だったりする。

麦くんの「また、映画観たいとか、してほしいことあったら、なんでも言ってね」とか「結婚しよ」とか、言葉だけなぞれば聞こえ良いのかもしれないけど、お前!言うタイミングと言葉選べよ!!笑
最低だよ!つまり最高だよ!!!笑

ぜひとも、『サマーフィルムにのって』の劇中で、好きであることをそのまま好きとしか言わない逆にアバンギャルドな恋愛映画『大好きってしか言えねーじゃん』の監督を務められた女子高生・花鈴ちゃんには坂本裕二さんの様々な作品を観てほしい笑

今後も自分の実人生に重ねて何度もディテール含め観返すであろう一本。
最高でした。
ジャン黒糖

ジャン黒糖