Kuuta

静かなる男のKuutaのレビュー・感想・評価

静かなる男(1952年製作の映画)
3.9
西部劇お馴染みの家としての「白」だけではなく、カラー映画なのでフォードの故郷アイルランドの草原の緑、モーリン・オハラ演じるメアリーの赤髪、彼女の衣装や食器の青(=家)が画面を彩っている。
故郷に降り立った米国人ショーン(ジョン・ウェイン)がメアリーを初めて見るロングショット、白い羊と草原、メアリーの赤と青の対比が素晴らしい。

例によって今作も、人の揺れ動く感情が物を投げる動作によって描かれる。大事な場面では風もめっちゃ吹く。宮崎駿のようだった。

自宅の畑にジャガイモを植えるか、バラを植えるかというエピソードに象徴的だが、ウェインの背負うアメリカ性がアイルランドの価値観と衝突する様子をコメディタッチで描いている(タイトルの渋い印象とはだいぶ違う)。

馬のアクションは西部劇じゃないし難しいかと思いきや、競馬やデートシーンでちゃんと入れてくる。仲介人の監視下での禁欲的すぎるデートが面白い。

結婚に反対するメアリーの兄、ウィルが唾を床に吐く姿は、タバコを投げ捨てるショーンの同型反復に見える。唾は青いハンカチで受け止められ、溢れた酒は白いハンカチで拭きとられる。

結局、ウィルの反対に遭ったショーンは、「家に入れない男」という西部劇の形式に接近する。彼にとっての理想郷を求め、ウィルとの決闘へ雪崩れ込む。

アイルランドの生活の抑圧性、不合理な因習、IRAへの言及すらあるが、彼らが日常で溜めた鬱憤が、ラスト20分で爆発する。「ゼイリブ」中盤の名喧嘩シーンは、今作のオマージュだという。

(全部が勢いで丸く収まっちゃう感じは、それで良いんかいという気もしてしまうが、フォードのストレートな郷土愛ということなのだろうか)

この喧嘩だけでなく、周りのアクションにも目を見張る。メアリーはショーンに引っ張られたり、投げ飛ばされたり、トランクの上を歩いたり、兄とショーンの帰宅にバタバタで室内を整理したり…。牧師が小さい扉をサッと飛び越えたのにも意表を突かれた。79点。
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