なべ

フロッグのなべのレビュー・感想・評価

フロッグ(2019年製作の映画)
4.1
 うわあ、出た!羅生門とかバンテージ・ポイントとかの、視点が切り替わって、事件がまったく異なる様相を呈するヤツやん!
 地味なテイストだから侮ってたけど、語り口が奇妙で、変な味わいがあってグイグイ引き込まれた。あらすじどころか、なんの予備知識も持たずに観始めたもんだから、途中のドキドキやハラハラはもちろん、結末は予想以上の大きな快感で震えたよ。
 まずはオープニング。森を駆け抜ける自転車に眼は釘付けよ。時々誰かの目線のようなカットもあって、だんだん不安が募る。自転車を漕ぐ少年の身に何かよくないことが起きるに決まってる。と次の瞬間、少年は行方不明に…。
 この時点ではまだミステリーなのかオカルトなのか、あるいはSFなのかまったく予測不能。どのパターンでもあり得る雰囲気なのがうまい。
 現場に残された証拠から、過去に起きた少年誘拐監禁事件との関連が浮かび上がり…むむ、これは猟奇的性犯罪サスペンスなのか⁉︎
 ここで視点は事件を捜査する刑事の家に移るんだけど、妻の不倫のせいで家族不和に陥ってるってディテールなのね。そんなギスギスした一家に不可解な出来事が起こり始めるって展開。冒頭で少年の失踪を描いておきながら、続く異変は担当刑事宅でってところが良き。うーむ、ますます読めねえ。未だ現実ともオカルトとも決めかねている自分に気づいて、だんだんイライラしてくる。でもこのイライラ、嫌いじゃないんだよな。ここでパッケージの不気味なビジュアルを思い出して、ヘレディタリーみたいな家庭を舞台にしたホラーを予想してみたりして。
 もうこれ以上は何も言わないけど、後半、タイムラインを遡って、別の視点から出来事を追い始めると、え?ええっ⁉︎ 全然違う景色が見えて来たじゃん。最後にはオチも含めてすべての事象がつながって、わああああってなったわ。
 最近、ストーリーのおもしろさより、観客を欺くことが目的になってる苦しい脚本をよく見かけるけど(特に日本のドラマなんかに多いよね)、ああいうクリエイティビティのない無茶苦茶な話ではなくて、もっと巧みに、もっと有機的に練られてるんだよ。ちゃんとした脚本はミスリードされても気持ちいいんだよな。
 たいした期待もなく、たまたま見始めたけどこれはなかなかな拾いものだった。
なべ

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