Solaris8

木靴の樹のSolaris8のレビュー・感想・評価

木靴の樹(1978年製作の映画)
4.9
東京国際映画祭で「ガーディアンズ」という映画を観たのだが、オルミ監督の映画「木靴の樹」を想い出した。「ガーディアンズ」の映画の時代的背景が第一次世界大戦という事でイタリアのオルミ監督の「緑はよみがえる」に描かれる戦争末期の塹壕戦の頃に符合するが、今から僅か100年前の話である。

「木靴の樹」は、「緑はよみがえる」の上映を記念して岩波ホールで37年振りに去年、再上映され、2016/4/1に、自分が大学生の時以来、久しぶりに「木靴の樹」を観た。

映画は、19世紀後半のイタリア、ベルガモに暮らす4組の小作農の家族の営みをありのまま、描いたヒューマンドラマで、俳優も実際の農民を使ったと聴いた。同じベルガモ出身のオルミ監督が祖母から聴いた話を脚色しているそうだが、「緑はよみがえる」も父から聴いた話だそうで、歴史を紡ぎ、映像に遺す事はとても重要な仕事だと思う。

19世紀末の北イタリアの美しい四季を持つ自然の中で、春になって、農場で畑を耕し種を撒き、牧舎で動物の世話をしながら、お休みには教会で祈り、秋には収穫を迎える慎ましい日常生活が丁寧に描かれ、その営みの中で小作農が逞しく生きる姿が描かれる。

厳しい生活の中にも秋の収穫が終われば村で収穫祭を祝い、ある家族は空き地に密かにトマトを植え、甘く育つように願ったり、若い小作農の男性が美しい女性と結婚したり、小さいながらも幸せで希望ある暮らしがそこには在った。

4組の小作農で一番貧しかった家族の父が息子の木靴を作る為、領主に無断で、領内のポプラの木を伐ってしまい、領地から追放されるが、残りの家族が静かに祈る姿が、とても印象に残った。

自分自身、田舎で生まれたとは云え、普通の会社勤めの家庭に生まれたので、大学生の時に初めて観た、この映画の北イタリアの農民の営みは新鮮だった。

先日、アンジェイ・ワイダ監督が亡くなり、岩波ホールで残像を観てきた事が記憶に新しいが、自分が若かった頃、岩波ホールで上映されて馴染みがあるタルコフスキー、ギュネイ、アンゲロプロス監督等も既に亡くなって久しい。イタリアのオルミ監督には長生きして貰いたいと思っている。
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