JunichiOoya

愛しの母国のJunichiOoyaのレビュー・感想・評価

愛しの母国(2019年製作の映画)
1.0
全編紅、紅、紅。五星紅旗、五星紅旗、五星紅旗、だけの映画。
見せ方だけなら『芳華Youth』でコカコーラのに赤と掛け合わせた方がよっぽどマシだった。その表現の万分の1ほどの効果も無い凡庸な繰り返しにひたすらうんざり。

そして、苦笑が嘲笑へ、そして哄笑へと。

時節柄スクリーンを眺めながら声を出して嗤うことは憚られるのだが、この映画を前にしてその縛りはちと厳しすぎると言わざるを得ない。

同じ館で先日特集上映のあったセルゲイ・ボンダルチュク特集でも何本かの国威高揚映画に笑わされたし、数日前に見た『わたしは金正男を殺していない』(原題『ASASSINS』)には国策捜査の愚かさを見たところだが、表現についての全体主義的統制ということではソ連〜中国〜北朝鮮への「指導・教化」の流れは連綿と引き継がれ、かつ一定の成果を上げているということなのだろう。

この映画についていうと、20分程度の短編7編によるオムニバス。登場するエピソードは①49年の国家成立宣言(毛沢東の演説)②64年の核兵器所持③84年のLA五輪女子バレーボール優勝④97年の香港返還⑤08年の北京オリンピック⑥15年の抗日戦争勝利70周年記念式典⑦16年の有人宇宙飛行。これらを国家的偉業と位置付け国家を褒め称える内容。原題花『我和我的祖国』)

①と④は寸分の(というより文字通り「一秒」の)誤差なくイベントを成就することの価値が称揚され③と⑤以外は悉く軍、武力に関する逸話。
一番大嗤いしたのは④。五星紅旗と並んではためくバウヒニアの花の赤い旗は、一度もアップで捉えられることはなく、もちろん「一国二制度」への言及もない。150年の英国支配からの解放は20年の「移行期間」を経てジミー・ライやアグネス・チョウの排斥に至る訳だが、既にこの時の映像にその予告が見て取れる。作家(国家)の意図とは別に見る者に普遍的真実を伝えてくれる。

そして最も戦慄させられるのは②だろう。核兵器開発過程での被爆事故が「わが祖国」を愛する者の献身的犠牲に置換されるなんて!

せいぜい、他山の石として我が身を律するくらいしか価値のない150分でした。
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