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カモン カモンのchunkymonkeyのレビュー・感想・評価

カモン カモン(2021年製作の映画)
4.0
ホアキン・フェニックスと天才子役がお届けするホッコリの宝石箱やぁ(古い...)的なやつです。A24作品。いやぁ、これはめちゃくちゃ心が洗われました。基本何も起こらないです。ちょっと甘やかされて困った子というところはあるけど、マジで普通に叔父と甥が戯れているだけです。でもその何気ないやりとりがとにかく愛おしい。特にギャグが仕込まれているわけでもないのに、思わずにっこり笑顔になる会話がたくさん。特に自分も知らんかったお母さんのプチ衝撃な秘密を9歳甥からあっけらかんと告げられ、女性の身体が... 権利が... とタジタジになるジョニーおいたん...(笑)

なぜ普通のやり取りがこんなにも素敵な映画になるのか。その答えがまさにこの映画のテーマです。ホアキン・フェニックス演じる主人公のジョニーは、ラジオジャーナリストでアメリカ全土を旅しながら少年少女に今の世の中や将来についてインタビューをしています。その大事な道具が、マイク。9歳の甥ジェシーもすぐにこのマイクの虜になります。私たちは様々な音が聴こえてくる世界に生きていますが、マイクを通して聞くということはマイクを向けたその対象にしっかり焦点をあわせて、「聞こえる」ではなく「聞く」行為に変わることを意味します。この映画を観る時、観客も知らず知らずのうちに、何気ない会話を真正面から聞くようになっています。

「しっかり聞くということは、相手や自分、そして世界を理解することであり発見することである」というのがこの映画の真髄。だからこそ、どうってことない会話がこんなに美しい映画になるというわけです。っていうか、ホアキン・フェニックスの癒し系の語り口の心地よさが凄まじい。お金持ちになったら彼を雇って、ベッドサイド・ストーリーを語ってもらいながら眠りにつきたい。っていうのは非現実的なんで何かそういうCDを作ってほしい。

甥ジェシーを演じたウッディー・ノーマンがすごい。この役、結構難しいはず。ジェシーは少しおかしくて困った子供なのですが、そこには思ったままに行動し発言する自然体という側面と、家庭環境と育てられ方によりヘンになっている不自然な側面が共存しています。これを本当に自然に演じてみせている。実際の年齢は知りませんが、役柄上9歳というのはBelfastの男の子と全く同じです。この子が圧倒してますね。素晴らしい。

実際の子供たちにインタビューしている映像がたくさん流れます。その一人の男の子は、その後銃弾に倒れ亡くなっており、この映画は彼にささげられています。エンドロールでもインタビュー音声が続いていきます。印象的なのは現在の世界に対して疑問や憤りを感じながらも皆将来に希望を持っているということです。白黒で映されるこの映画は私たちが生きる場所がかけがえのない美しい世界に感じられます。子供に限らず、名もなき声を真摯に聞くことが美しい世界への第一歩だと感じました。