えむ

カモン カモンのえむのレビュー・感想・評価

カモン カモン(2021年製作の映画)
4.3
シンプルな作りながらとても良い作品。

親の介護などの過去の経験からギクシャクしていた兄と妹。
妹の旦那が移動先で精神的に不安定になったことから、妹の子供を預かり不思議な共同生活が始まる。

ジェシーというこの子供は、大人からみたら変わった子だけれど、ある意味とても自由な精神とハートの持ち主で、ありのままの自分を曝け出すし、聞きたいことは容赦無く聞く。

この素直さ、ストレートさはいつしか壁を作り、周りから浮き出すことがないように生きる術を染み込ませてしまった大人にとっては、残酷でもあり、脅威でもある。
否応無しに、自分の心と向き合わされることになるから。


ホアキン演じる伯父のジョニーは子供にインタビューをする仕事をしていて、その子供たちのインタビュー内容が随所に散りばめられているのだけれど、子供たちってこんなにも視野も世界も広いのだということや、自分が子供のときには最初はこのポテンシャルを持っていたのだと思うと、大人としてはちょっと反省もするし、切なくもなってしまう。

モノクロの映像がその何処かノスタルジックな感じを助長する。
そしてモノクロなのに、光の使い方なのか、登場人物の心情が浮かび上がってくる。

登場人物は兄と妹とその息子、間接的に父親、それから数人の仕事仲間ととても少ないのに、実に色々なものが語られているように感じました。

果たして普通であることに意味があるのか。
普通って何なのか。それぞれがありのままで生きてはいけないのか。
みんな葛藤だってあるし、感情が爆発することだってある。
大丈夫ではない時も、そんな自分をも受け入れて先に進むしかないと。


これはアメリカを舞台にした映画だけれども、子育てであったり、親の介護であったり、さまざまな場面で私たち自身の身近にある葛藤や心情を描かれてるから、何処かで重ね合わせて考えてしまう人も多いかもしれません。

その分、個々に置かれてる状況によっては、観ていて痛いところ付かれたり、今ある自分の有り様を責められてるような気持ちになったり、イラついたりする人もいるかもね。
このジェシーや子供たちの視点から見たら大バカに見えても、みんなここまでそれぞれに頑張ってきてる訳だから。

(でも別にこの映画はそれを否定したいわけでもないと思うし、それはそれで間違いだと言ってもいないと思う)


ホアキンはジョーカーの時のかけらもないような、でもどこかで奥底に持っている「孤独」のようなものは通じるものがあるようなそんな佇まいでしたね。
そして、ジェシー演じる子がかなりとんでもない。
完全にあのホアキンと渡り合ってる感じが末恐ろしいような頼もしいような。
えむ

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