Filmoja

ミッドナイトスワンのFilmojaのレビュー・感想・評価

ミッドナイトスワン(2020年製作の映画)
4.5
破り捨てた写真

ハニージンジャーソテー

漫画「らんま1/2」

公園のバレエ

白鳥の髪飾り

「お母さん」

…エンドロールが終わっても様々なシーンが浮かんでは消え、観終えたあとも、ずっしりと心をえぐられるような余韻が切なくも愛おしい。


普段、邦画はあまり観ないのだけど、15分超(!)のロング予告編を観てからずっと気になっていて、地元のミニシアターで公開されるのを待って、久しぶりに鑑賞。

トランスジェンダーの凪沙を演じる草彅剛の色気のある目線やしぐさ、言葉遣いなどはややステレオタイプに思えるけど、誰もが想像できる範囲での傷みや苦しみ、そして慈しみの情動を惜しげもなく熱演していて、伝わる心情の度合いが尋常じゃなく素晴らしかった。

その凪沙の家に居候することになる一果を演じる服部樹咲。新人とは思えない存在感で、前半と後半の情緒の移ろいを繊細に表現して、殻に閉じこもる少女から外の世界へ羽ばたく白鳥へと見事に演じきった。

とりわけバレエのシーンは美しく優雅で、それでいて一果のやり場のない焦燥感や渇望感も全身から滲みでていて、凪沙の感動と羨望がこちらにも伝わってくるよう。

社会に取り残され、それぞれ孤独に生きてきた似た者同士のふたりが出合い、ぶつかり、傷みをさらけ出し、共に寄り添う…そんな愛のカタチを描いた本作が持つ慈愛の眼差しと生きにくさへの承認は、きっと多くの人たちの琴線に触れるのではないだろうか。

トランスジェンダーを扱った作品といえば昨年、同館で観た「Girl/ガール」( https://filmarks.com/movies/80577/reviews/72795625 )が思い出されるけど、ドキュメンタリータッチで人物描写に主眼を置き、ただただ痛々しさが強調される同作に対して、本作が映し出す様々な人間模様は、実社会における合わせ鏡のようで(洋画と邦画の違いはあれど)よりダイレクトに共感してしまう。

思春期の反抗やバレエの才能を巡る演出はやや過剰にも思えるけど、それを差し引いても、ラストでの前半の伏線からつながる回想シーンは、思わず肩を震わせるほど感涙してしまった。
渋谷慶一郎によるピアノソロの、もの哀しくも美しい旋律を奏でる劇伴がいつまでも心に響く。

コロナ禍で大作の上映延期、成績不振が相次ぐ中、本作のような胸を打つ日本映画こそ、ロングランで多くの観客の目に触れてほしいと願っている。
Filmoja

Filmoja