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ミッドナイトスワンのtsuraのレビュー・感想・評価

ミッドナイトスワン(2020年製作の映画)
4.0
思えば久々の投稿。

投稿が空いていた間、このコロナ禍に於いても幸いな事に仕事は多忙で、家事に育児に時間はどんどんと消費され自分の時間など殆ど持てていなかった。 
そして煮詰まった感情やふとしたすれ違いは、やり場のないストレスへと変貌し時には辛く当たってくる妻を受け止め切れず、自身も凹んでしまう…そんな悪しきスパイラルに陥っていた。
でもそんな時にふと取れた有給休暇。

私はそんな多忙な状況の間隙を縫って映画館に癒しを求めた。

そして、見たのが本作「ミッドナイト・スワン」である。

どうしてかな、煮詰まっていた自分の心は凪沙という1人の女性としての生き様と覚悟に対してそれこそ地道ながら歩を進める姿(凪沙と一果、2人の成長とも形容してもいいだろう)が自分のもがいていた姿と被ってしまった。
だから彼女の怒りやもがき全てが私の悩みとはイコールじゃないけれど、あの辛さや痛みが自分の事の様に感じてしまい後半は泣きっぱなしだった。

加えて少女の成長と並行して垣間見せるバレエは映画のそれこそ文字通り「顔」となっており、とりわけクライマックスは更に泣き伏せてしまった。

かなり粗暴な物言いになるがこの映画の源流には「トランスジェンダーが子供を育てられるのか?」という究極的な問いを提示していながら、そのLGBTQの範疇に留まっていない。寧ろそんな荒唐無稽な疑問に新たな地平線を見出す。

だからこの作品は凄いのだ。
 
昨今取り巻く環境の変化が著しいLGBTQだけどそれがこの作品にとってはあくまで設定の一部分で、フォーカスされているのはあくまで母子のドラマであり、その根幹の描き方が非常に力強い筆致で完全に独り立ち出来ている。

寧ろこの母と子の関係が如何にセンシティブで十人十色の家族の関係性がある事を浮き彫りにしており、それこそ昨今の複雑化した家庭環境に対するメタファーなるものを感じたが。

それにしてもふれすにはいられない。

草彅剛と服部樹咲両者の素晴らしい演技。

前者は特段の参考を取らずに凪沙という人間を表現しており、これがまたジェンダー
という壁に苛まれるその後半に於いても抜群の読解が為されており、彼にしか表現出来ない出色の演技であったと思う。(特に母性が芽生え始めてからの彼は彼ではなく、まさしく一果の母であった。

そして、もう1人。この人も新人とは思えない。

もはや彼女の虜だった。

服部樹咲。

まだ若干の初々しい演技からは到底図れぬ重い役柄も彼女の内から湧き出る力みたいなのが終始スクリーンの視界をクリアにさせており、思春期の鬱や秘めたる想い、愛情への飢え…どうしようもないくらいのエネルギーを体現した彼女の今後が楽しみですらある。

勝手に彼女の未来を占うわけではないが、得意のバレエを活かした今回の演技は必ずや彼女の道を照らす事と思う。



それにしても私、チャイコフスキーが好きなのだが、数々のバレエ音楽を浴びていると久しく聞いてなかった名曲群に浸りたくなった。

もし私をフォロー頂いてる方で、この手のクラシック音楽に精通した方いらっしゃいましたらぜひオススメ教えてください!
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