umisodachi

ミッドナイトスワンのumisodachiのネタバレレビュー・内容・結末

ミッドナイトスワン(2020年製作の映画)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

広島から上京し夜の店のステージで踊るトランスジェンダーの凪沙は、育児放棄で通報された従姉妹の娘・一果を一時的に預かることになる。不愛想な一果を面倒くさがる凪沙だったが、一果が密かにバレエ教室に通っていることを知り……。

草彅剛が孤独だが愛を秘めたキャラクターを見事に表現していて、実に見応えがある作品だった。トランスジェンダーが晒されている貧困や暴力、日本では7人に1人にも上るという子どもの貧困、自己承認欲求の犠牲になる子どもなど、多角的に現代日本の病理に光を当てたストーリー。(それだけに、ツイッターでの監督の発言は残念だった)

【親との関係に問題を抱える子どもとバレエ】という要素など、ベースに『リトル・ダンサー』を強く感じた(意識しているのかどうかは分からないが)。バレエ、才能を見出す先生、隠している本当の自分をぶつけてくる友人、スワンレイクなど共通するポイントが多い。最初は理解を示さなかった保護者が、自分の生き方を変えてまで子どもの夢を叶えようとするのも共通している。

バレエ関連の描き方も非常にしっかりしていて、新人だという一果役の服部樹咲のダンスはもちろん、バレエ教室の描写などもリアルだと思った。一果のバレエ経験についても「小さい頃は習っていたんだろうな」というくらいで変に長々と説明しないのが良い。そんなの見ればわかるから言葉による説明なんて不要だからね。

全体的にとてもよくできた映画だと思う。特に、感情の表現が苦手で中学生のわりに精神的に成長できていない部分がある一果と、一果とは別の意味で抑圧されている親友りんとの関わりはとてもビビッドで素晴らしかった。才能があるからこそわかる才能の優劣、一見わからないところに吹きすさぶ絶望。そして、絶望の末に自分の存在ごと他人に委ねる少女の想い。言葉には出さなくとも、確かにそこに存在するふたりの少女の強い感情が鮮やかに息づいていた。

【以下ネタバレあり】




もちろん草彅剛の演技は素晴らしくてちょっと怖いくらいなのだが、実は終盤の展開がちょっと苦手だった。これは本作に限ったことではなく、どんな映画であっても私は引いてしまうやつで……人が死ぬことによって感情を動かす構成がどうしてもダメで。最近だと『ライフ・イットセルフ 未来に続く物語』がまさにそうだったのだが、死んじゃうとさ。そりゃあ悲しくなるじゃない。

親にしっかり向き合ってもらえずに夢破れた少女がビルから飛び降りたり、滅多に起こらないであろう手術の後遺症で誰がどう見ても悲惨な姿でトランスジェンダーの女性が死んでいくなんて、そりゃ可哀想だけどさあ。金持ちが雑居ビルの屋上で結婚パーティ開くのも変だし、さすがに一果もあの状態の凪沙を見たら即先生に頼み込んで病院に入院させようとするのでは?ふたりの「死」に関する部分だけ一気に非現実的になったように感じて、「死」だけが作りもののように見えてしまった。

あとはまあ……細かいけど「ブラジャーは絶対してるだろ」とかね(あんな風に胸が露出するわけない)。コンクールまでの切実なリアリティに比べて、その後の作りものっぽさが気になって終盤は引いてしまった。

「美しい日本」についてのNYでの会話なんかは気が利いていて良かったので(一果にとっての日本は辛い場所であり「美しい国」ではなかったから、いつか一果も弱者が苦しまない「美しい日本」を見てみたいという意味だと解釈しました)、あそこまで悲劇性を強調せずに社会の矛盾と苛酷さを炙りだす展開が見たかったかなあ。


umisodachi

umisodachi