yuki

ミッドナイトスワンのyukiのレビュー・感想・評価

ミッドナイトスワン(2020年製作の映画)
4.0
LGBTQに触れずにレビューを書かないわけにはいかないかな。
単になんで私は生まれてきたんだろう、とは異なる苦しみ。
身体の性と心の性が一致しない、ということは理解どころか想像することすら難しいが、
その想像を絶する域を飛び越え、今作を観ていると心に漣が起きた。

冒頭、ハッキリとは顔を捉えることなくステージメイクを施すシーンから始まる。
その後に歩く後ろ姿。少し乱れた長髪だからステージを終えた後の帰路かと思ったら違う。別人の女の子が酔い潰れた女性(母親)を迎えに来たと知る。
ステージメイクをしていたのが凪沙で、後ろ姿を見せたのが一果。
年齢、性別、境遇…共通点の見えないふたりが1番センシティブなところで実は近しいことが後々思い返される印象的なシーン。
(終盤になって一果の後ろ姿が再度、映し出されたので尚更)

一果は凪沙に「母親」を求めていたわけではないと思う。
彼女にとって「母親」は無償の愛を注いでくれる存在ではなく、存在自体がまるで呪縛。
(だから凪沙が「あなたのために」ウィッグもメイクもせずに働きに出るときに「頼んでない!」と叫ばずにはいられなかった)
一果にとって、凪沙とはわかりやすい名前をつけられる関係ではなかったからこそ、かけがえなかったのではないか。

「うちらみたいなんは、ずっとひとりで生きていかなきゃいけんけえ」

一果はのちに友達になるリンとも対照的だ。
裕福な家庭で何不自由ない暮らしを送っているリンが、いろいろな危険と隣り合わせのバイトをしていたのはなぜか。

一旦、堕ちたら真っ逆さまは誰も同じ?

これでもか!と痛めつけて掛かるような描写の連続。
それは綺麗事ではない現実を突き付けるために本当に必要だったのか。

普段は無表情な一果が、ステージにあがった途端、身も心も喜びに溢れていきいきと優美に踊って見せる。その姿を見たときの凪沙の表情。変化。
きっと、私たち観客ひとりひとりにも点った希望がそこにはあった。

せめてmellowでdreamyな一節を

‘Cause I, I’m in love
With my future
Can’t wait to meet her

だって私は「未来の私」に恋しているから
その時が今から待ちきれない

by Billie Eilish『my future』



スコアは見事な演技を披露してくれた役者のみなさんに✨
新人ながら草彅くんに負けない存在感を放つ服部樹咲(はっとり・みさき)ちゃんの未来に✨
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