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ミッドナイトスワンのhynonのネタバレレビュー・内容・結末

ミッドナイトスワン(2020年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

いい映画、でした。
でもごめんなさい…絶賛はできません。

一果のために男性の格好で就職するシーン。
ヘルメットに本名を書こうとして躊躇するシーン。
面接のシーン。
トランスジェンダーの方の実体験をもとにしているかのようなエピソードに、観ているこちらも何度も胸が苦しくなりました。

バレエの先生が、凪沙のことをうっかり「お母さん」と呼んでしまうシーンが好きでした。
あのときの凪沙の恥ずかしそうな、嬉しそうな笑顔が忘れられません。

そして何より、俳優さんが素晴らしかったです。
凪沙という女性が本当に存在しているかのような、観終わったあと凪沙のことが好きになってしまうような、そんな映画でした。

ただ、悲しすぎました。
悲しい話にしよう、感動させよう、という演出が逆にノイズとなって、感動がスッと冷めてしまう場面が何度もありました。

バレエの先生がレッスン代を免除すると言ってくれるのに、トランスジェンダーとはいえ他にも仕事の選択肢はあるのに、いきなり風俗で働く必要があるでしょうか?

悲しくて可哀想な話にするために、衝撃的な展開にするために、凪沙は風俗で働かされ、でも耐えきれずに逃げ出し、バレエの友達はあっけなく自殺し、最後は海辺の美しいシーンを撮るために凪沙は救急車も呼んでもらえません。

凪沙が倒れて胸がはだけるシーンがありました。
身体は男性だけど自分は本当は女性なのだ、と思いながら生きてきて、手術まで受けた人が、人前で胸があらわになっても隠さないなんてことがあるでしょうか。
この脚本を書いたのは男性だろうな、と思いました。

そういう数々の違和感や疑問点について、なぜLGBTQに関するポジティブな現状は描かれていないのかについて、この映画の基本的なスタンスについて、そして他のLGBTQ映画との違いについて、この映画を観た友人といろいろと話し合い、考えるいい機会となりました。

同じくトランスジェンダーを描いた邦画「彼らが本気で編むときは、」は大好きな映画です。

凪沙も、「トランスジェンダーだから1人で生きていかなければいけない」とか「トランスジェンダーとして生まれたから不幸なのだ、不幸になるしかないのだ」「なんでわたしだけが」と考えずに、素敵なパートナーと出会って、家族になって、幸せになって欲しかった。
「彼らが本気で編むときは、」のリンコさんのように。
そう思います。
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