ななめまえ

ミッドナイトスワンのななめまえのレビュー・感想・評価

ミッドナイトスワン(2020年製作の映画)
4.1
狂おしいまでの、禍々しいまでの、人間の『生』を感じられる作品です。
こんなにスクリーンから熱量が感じられる作品はそうそう無いと思えるくらい圧倒されました。
不器用に苦しみもがきながら懸命に生きている人たちを観るのが好き(好きというと語弊があるかもしれませんが…)なのですが、
本作はそれを見事に描ききった作品でした。出生格差も内容として刺さる部分があり、勇気付けられました。
ままならない人間の生き様を丁寧に丁寧に映し描いていました。

凪沙はきっと、一果が踊っているのを初めて見た時から夢をみたんでしょう。
目的ができて輝いていく凪沙の変化が素晴らしかった。
最初のヒールで颯爽と歩く姿も、メランコリックな表情を浮かべて金魚に餌をあげる姿も、お料理をするところも、荷物を持つところも本当に全部が良くて、草彅さんの演技に魅せられて、私もひとときの素敵な夢が見られました。完膚なきまでにその演技力に圧倒されました。

そして服部樹咲さんにも驚嘆しました。新人さんとは思えません。
終始怠そうな態度で姿勢が悪く、表情には覇気がなく、だらだら歩きます。所作からも彼女の生活が窺えます。
最初彼女は極端に台詞が少ないのですが、言葉がなくとも雄弁に物語っていました。
そこから変わっていく姿は是非スクリーンで実際に観て確かめていただきたいです。
一果という1人の少女の成長と変化の過程を見事に演じきっていて、一果役が服部さんで良かったと称賛の拍手を送りたいです。

ストーリーは途中ぶつ切り感というか、飛んでしまうとこがあったのが勿体なく感じました。(監督ご自身で脚本も書かれたそうでちょっと納得しました)
しかしそれを凌駕するほどの役者さんの熱量、作品のパッションが感じられて情感を揺さぶられます。
主役二人以外の方の皆様の演技も素晴らしく、嵌まり役で、本当に良い作品です。

見終わった後、頭を鈍器でぶん殴られたような余韻でしばらく放心状態でした。
こんなに温度の高い邦画が観られて嬉しいです。
とにかく役者さんが凄い!
ショッキングな内容も含まれるので苦手な方もいらっしゃるかもしれませんが、
大丈夫だよ、という方にはオススメの映画です。