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由宇子の天秤の一のレビュー・感想・評価

由宇子の天秤(2020年製作の映画)
3.9
話題作を遅ればせながら鑑賞
近しいテーマの『空白』を先に観ていなければもっともっと刺さったかもしれないけど、評判通り非常に素晴らしい映画だった
片渕須直監督がプロデューサーとして参加されているのも妙に納得できる

独特な撮り方から、一切音楽を使わなかったりと細かなリアリズム演出やエンドロールに至るまで、もろにダルデンヌ兄弟から影響を受けているような作品で、個人的には非常に好み

悪を暴こうとする“正義”や“真実”というものの、脆さや危うさを二転三転しながらサスペンスフルに引っ張ってくれるので、2時間半もの尺を忘れてしまうくらい没入してしまう圧倒的な臨場感
胸にズシンとくるような社会派作品でありながら、緻密な脚本で練り込まれたミステリーのような展開を繰り広げてくれるもんだから、まるで由宇子とハラハラドキドキを共有しているような気持ちにすら陥ってしまう

正義感溢れるディレクターの身内の不祥事が降りかかり窮地に立たされる主人公
直接的なシーンは一切ないのが逆に生々しい想像を掻き立てる

とにかくこの映画は出演している役者さん全員がと言って良いほどめちゃめちゃ巧い
瀧内公美や光石研は当然ながら、父親役の梅田誠弘や、『岬の兄妹』の和田光沙や松浦祐也、『サマーフィルムにのって』で虜になってしまった河合優実など、みなさん本当に最高のパフォーマンスで魅せてくれたのも、この作品のクオリティをぐっと上げてくれた重要な要素でしょう

歪んだ正義感から、ネットで無意識に私刑行為を正当化して行ってしまっている人は確実に一定数存在していて、そんな現代社会への警鐘ともとれる切り口の奥深さ
この世の誰もが一瞬で当事者側になってしまう可能性があるということを胸に刻んでおかなければ

2021 劇場鑑賞 No.062
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