天パのT

アントマン&ワスプ:クアントマニアの天パのTのレビュー・感想・評価

4.0
【MCUフェーズ5の幕開】
『アベンジャーズ :エンドゲーム』で事実上の一幕を終えたMCUは(厳密には『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』で、だが)、それまでの作品群を「インフィニティ・サーガ」と名付けた。フェーズ1〜フェーズ3と呼ばれるその作品群では、「インフィニティ・ストーン」というアイテムと、サノスというラスボスを軸に多くの作品が展開されたのだった。
そして、公開がコロナのパンデミック以降になったフェーズ4〜フェーズ6については、「マルチバース・サーガ」と名付けらた。フェーズ4では、パラレルワールドのようなマルチバースという概念を中心に、その世界観が紹介された。マルチバースの概念は、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』で起きた奇跡のような展開や、『ドクター・ストレンジ:マルチバース・オブ・マッドネス』のような超面白ストーリーを実現できた反面、ストーリーの複雑さや何でもアリの世界観が多くのファンに"マルチバース疲れ"を感じさせることとなった(他に映画だけでなくドラマも次々と公開されるペースに疲弊したという要因もある)。要は、マルチバースは諸刃の剣である。
そして本作『クアントマニア』は、アントマンの単体作3作目であり、フェーズ5の幕開けとなる作品と位置付けられており、タイトルの通り量子世界を舞台にしており、マルチバースサーガにおける重要作品となっている。

【良くも悪くも世界観がガラリと変わった】
多くの人が指摘している通り、予告編でも明確だが、アントマンシリーズとしては1作目(2015年)と2作目(2018年)と比較して世界観が大きく異なっている。
1,2作目では、MCUが宇宙規模になってきた中で、比較的こぢんまりとした、コメディタッチの作品として、MCUの流れの中でわりと癒しの機能を果たしていた。ところが、特に2作目以降では、アントマンの役割が大きく変わることとなった。その理由は『エンドゲーム』を見ればわかるが、つまりは量子世界という概念を取り入れることで、宇宙を救う規模のことをやってのけるキャラクターになったということである。
こうしてアントマンが量子世界という概念を得てMCUの中でも重要なキャラクターの1人になったこともあって、1,2作目については冴えない男の日常にトラブルがまとわりつくような世界観だったのが、3作目の本作についてはもはや『スター・ウォーズ』の絵面である。作中のほとんどを量子世界のシーンに費やし、宇宙のような、独特な世界の中でアントマンやワスプ、そして娘のキャシーの活躍を見ることになる。
更に、フェーズ4のドラマ『ロキ』の最後に登場し、マルチバース・サーガのラスボスになるとさている征服者カーンが初めて本格的に登場するエピソードとしても位置付けられ、そのキャラクター性も、アントマンの作品規模を大きく拡大させている原因となっている。

【楽しかった!…けど】
テンポが良く、また量子世界に入ってからは、量子世界に30年取り残されていたジャネットが量子世界について頑なに話してこなかったという設定のおかげで(それはそれでどうなのとは思いイライラもしたが笑)、ジャネットとカーンの間に何があったのか明らかになっていくような話の進め方を楽しんだ。量子世界という舞台は『スター・ウォーズ』や、あとはMCUなのでキャラクター造形は『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』や『ソー』に近い。ただまるまる一緒かというとそうではなくて、1作目から示唆されていたが、独特の気持ち悪い感じが良く表現されていたと思う。特にゼリー状の物体が色々と出てくるのが気持ち悪く面白かった。また、舞台は変われどちゃんと"アントマン"しているところも感動した。
肝心のストーリーについては、予告編で期待したような展開とは結構違った。征服者カーンという巨大な敵を相手に、かなり絶望的な展開になるような予告編だったので、かなりシリアスになるのではと思ったが、うーん、コメディ要素がきちんと継承されていることは好意的に捉えはするものの、話の終わらせ方も含めて世界観の割に軽い話になっていたかなと思う。たしかにアントマンは小さい物語だったことが良いところではあったのだが、大規模の話にしたいのかちっこい話にしたいのかどっちつかずという印象を受けた。
特に、カーンは言ってることがすごく怖いのに、『クアントマニア』の中では(特に終盤)小物に見えてしまう。また、登場する技術も、まぁ1作目からそうだったと言えばそうだったのだが、何でもアリの感じになっていて、最後の展開も技術でサラッと解決している感じがして、そのあたりちょっと興醒めした。
更に、5年間消されていたアントマンことスコットと娘のキャシーの親子描写、特に大事な時期を親として一緒に過ごせなかった葛藤が中心になるのだろうな、と予告編で勝手に想像していたが、そのあたりも特に深く突っ込まれず、もちろんスコットの動機としては娘の存在が大きいものの、なんかそのあたりもアツくなる展開は無かった。結局、紹介することが多すぎて、あまり深みを出すような余裕のある映画にはならなかったのだろう。
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