つかれぐま

エルヴィスのつかれぐまのレビュー・感想・評価

エルヴィス(2022年製作の映画)
4.0
22/7/4@調布#5

黒人居住区に育ちゴスペルで覚醒した少年が、資本主義という悪魔と契約を交わし、その頂点であるペントハウスまで神のごとく昇天。かくして彼の歌声は、白人富裕層に独占される皮肉。
資本主義の縮図だ。

圧巻の音楽シーンが続くが、中でもラスベガスのファーストステージが最高だ。黒人コーラスにホーンセクションまで従えて、歌うは原点の「イッツオールライト」。エルヴィスがキングに上り詰めた瞬間を見事にキャプチャーする。

私の好きな音楽映画は『セッション』と『ボヘミアン・・』だが、共通するのは、最後に作中最高のライブシーンがあり、一気にエンドロールに突入する切れ味の良さだ。一方、本作は前述した最高のステージのあとも、物語は延々続き、テンションは下がっていく。時系列をいじってでも最後にあのステージを見せて欲しかった。監督はどうしても最後にエルヴィス本人を見せたかったのだろうか?と自問自答したが、ある著述家のツイートが参考になったので、引用させていただく。

伏見瞬さんのツイートより引用:
『エルヴィス』を観て、エルヴィス・プレスリーはアメリカンドリームの体現者では決してなく、合衆国の中で孤立したエイリアンだったことを実感した。黒人に近づきすぎた白人は人々からも歴史もからも切り離され、それ故か、フェイクだらけの人口都市ラスベガスに何年も幽閉される。(引用おわり)

冒頭に書いた私の雑感の、更に本質を捉えたこのツイートで監督の意図が想像できた。最高のステージの後の「幽閉」。ド派手なラスベガスが、決して魅力的に見えてこないのもそういうことか。『ボヘミアン・・』の切れ味も良かったが、本作のこんな後味も捨てがたい。

エルヴィスが憑依したオースティン・バトラー、彼には珍しい悪役(というほど邪悪ではないが)を演じたトム・ハンクス。2人の演技が素晴らしく、こんな大作をたった二人で支配しているのが凄いね。