岩嵜修平

エルヴィスの岩嵜修平のレビュー・感想・評価

エルヴィス(2022年製作の映画)
3.9
これは最高級の音響で観ないと勿体ない音楽映画。いくらでも懐古的な映画に出来たところを、まさに分断が再び進む世界において、音楽(アレンジ)的にもテーマ的にも"今"の映画として、描くことを決めたバズ・ラーマンに拍手。まさに今、語り直すべき人物であった。

ドルビーシネマ、凄いのは四方から凄い音量で美しい音が鳴るだけじゃなくて、最後のワンシーン、ドルビーシネマの"真黒"がめっちゃ活きるんだよな…。終始、音が鳴り続け、煌びやかな映像が繰り広げられた先の、まさに「巨星墜つ」表現には息を呑んだし、ならではだと思う。この体験に+600円は安い。

もちろんエルヴィスの楽曲は知ってたしライブ映像も観たことは有ったけど、正直、彼の出自や音楽的傾向、彼が本当に目指したものについては全く知らなかった(ドーナツネタに笑ってた自分を恥じる)ので、彼自身を知る意味でも大きいし、それと並んで、アメリカという国の歴史を投影した作品でもある。

前半、登場した瞬間から、オースティン・バトラーの圧倒的なパフォーマンスに鳥肌が立ちまくり、でも、後半、彼自身の過酷な現実を目にしてからは、映画内の観客ほどには興奮出来なくなっていくんだけど、そこから最後、"彼"自身の歌に泣かされる素晴らしさ。カタルシスはボラプに劣るが、双璧の興奮。

本当にオースティン・バトラーで大正解だったと思う。身長もそうだけど、マイルズ・テラーでもアンセル・エルゴートでも、あのシャイさと舞台に立った時の堂々っぷりのギャップと、低音の色気は表現しきれなかったのでは。
岩嵜修平

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