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エルヴィスのAPlaceInTheSunのレビュー・感想・評価

エルヴィス(2022年製作の映画)
4.3

『華麗なるギャッツビー』をディカプリオ好きの友達と映画館で観た時は、バズ・ラーマン監督の過剰に綺羅びやかな演出が鼻に付いて好きになれなかった。

本作『ELVIS』でも、その演出の方向性は変わっていないように感じたが、印象は180度違った。
オープニングのワーナー・ブラザースのロゴ【WB】の出し方から既に過剰なまでにゴージャス。
エルビスの名曲達を、じっくり聴かせる事より、バンバン忙しなく話を進める演出。
'50~'70年代を描いているのに、現代R&B・HIPHOPアレンジした音楽を使うという判断。


史実に詳しい古参のファンを納得させるより、若いオーディエンスへ届ける事に重きを置いた結果だろう。
エルビスプレスリーという最高にセクシーでかっこよくて悲しいアーティストが居たということを知らしめたいというアバズ・ラーマンの思いを感じる。
先述した音楽についても、違和感を承知で、エルビスの曲を現代版日リミックス/マッシュアップしDojaCatやエミネムとエルビスを共演させ蘇らせたのだ。

個人的に、黒人音楽からの影響をどう描くかに注目していた。エルビスプレスリーにとって、さらにロック音楽にとって無視してはならない事だと思っているから。
その点では、アニメ表現を駆使して幼少時代から貧困だったエルビスが黒人コミュニティで育った事をテンポ良く説明した上で、掘っ建て小屋の壁の隙間から見たリズム・アンド・ブルースの官能に魅力され、黒人教会で昇天するシーン。これ以上ない程の満足度。BBキングやリトル・リチャードの描き方もブラックミュージックへの敬意が感じられる。

そして何より、ポップミュージックの歴史の中でも一、二を争うポップアイコン、エルビスプレスリーを見事に体現したオースティンバトラー。
歌声が申し分ないだけでなく、立ち居振る舞いの成り切り方が素晴らしい。
大佐が初めて舞台でのエルビスを観たメンフィスでのステージ。その登場シーン→最初の歌声を上げたとき→足と腰をくねらせて踊る、女性観客が本能でエルビスの色気を受け取って卒倒する場面。心底、痺れた。
オースティンバトラーのアイドル映画としても充分に機能している。

舞台に上がる為に私生活全てを犠牲にする哀しさ(ドラッグに依存せざるを得ない)、
現在にも繋がる、アーティストを搾取する構造もしっかり描かれている。

歪な編集だと感じもするが、良さを挙げたら切りがない。心を揺さぶられる作品だった。
時代がバズ・ラーマンに追いついたんじゃないだろうか。
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