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子供はわかってあげないのumisodachiのレビュー・感想・評価

子供はわかってあげない(2020年製作の映画)
4.2




田島列島の人気コミックを沖田修一監督が映画化。主演は上白石萌歌。

ステップファミリーで暮らす高校生の美波は、水泳部の部活中にひょんなことからもじくんという同級生と出会う。書道家の家系だというもじくんの家で、幼い日に生き別れた実父から届いたお札と同じものを見つけた美波は、もじくんの兄の力を借りて実父を探してみることにするのだが……。

原作既読。のんびりしたホームドラマ要素・瑞々しい青春要素・謎が謎を呼ぶちょっとしたミステリー要素が混然一体となっていた原作から、ミステリー要素だけを潔く全カットし、ひとりの少女の成長物語に全部の舵を切った映画化作品だった。

まず、上白石萌歌の美波としての説得力がハンパない。ハッピーを全力で受け止めてきたこれまでの時間、だからこそ自分の気持ちに素直に向き合える健やかさ、それでも消えない「本当の父親」への思いと母親への気遣い、そして水泳部のルーキーとしてのリアリティ。セリフでは補えないあらゆる要素が溢れていて……あの瞬間の上白石萌歌じゃないとできなかった役だという時点で、本作の勝ちは見えていたと思う。

本作には、悪い人がひとりも出てこない。全員が良い人で、誰にも悪意がなくて、少し危なっかしいことがあっても傷つくようなことは起きないし、すべてが優しさに包まれている。ハラハラドキドキも大してない平和な時間が138分続くのだ。退屈かって?全然!まったく退屈なんてしない。

美波がハマっている劇中アニメの作りこみ、美波がいま暮らしている家族のなんでもない日常、水泳部のコーチや仲間との空気感、もじくんと少しずつ築いていく関係、もじくんの兄との出会い。過剰な説明は意図的に省きつつも、そういった描写にたっぷりと時間をかけて、空気の粒ひとつひとつまでをスクリーンに閉じ込めるように、丁寧に丁寧に紡いでいく。

「久々に会う父親」といった特別な瞬間だけではない。17歳の夏は美波ともじくんにとっては一度きりで、どんな瞬間だってもう二度とは訪れないのだ。子供が自分の頭で一生懸命考えて、最善だと信じる決断を繰り返して、確実に成長していくというドラマ。誰もが経験する、誰にとってもかけがえのない物語。そして、そうやって成長するためには、そのための力を蓄えてもらわないといけないというメッセージ。

「教えてもらったことなら、教えられる」という言葉は、なにも書道や水泳だけではない。誰かを愛して、信じてあげることだって同じはずだ。美波が受け取ってきた光が、美波のこれからの人生を輝かせて、美波を「教えられる大人」へと成長させてくれる。人生って素晴らしいと素直に思える作品だった。

実父を演じた豊川悦司の伸び伸びとした芝居や、短いながらもインパクトを残す千葉雄大、そして「もじくん」という唯一無二の相手役を演じた細田佳央太の邪気のない魅力など、役者それぞれがキラリと光る作品でもあった。息子がもう少し大きくなったら一緒に観たい。そんな映画だった。













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