KAJI77

鬼火のKAJI77のレビュー・感想・評価

鬼火(1963年製作の映画)
3.6
その男はいかにして死んだのか。
生きる事の無意味さに苛まれた男の、自殺までの48時間を捉えたフランス映画、『鬼火』(1963)を鑑賞しました!

フランスでの原題"LE FEU FOLLET"は「松明」の意。三十路の主人公は、誰もが1度は抱えるようなありきたりな虚無感に悶え苦しみます。映画『ニーチェの馬』(2011)のレビューでも多少触れましたが、この作品が取り扱うのは、著名な哲学者であるニーチェやハイデッガーが言う所の「ニヒリズム」と言う奴です。その立場は大別すると2つ。1つは、世の中の全ての事象が色褪せて見えてしまい、一直線に絶望に陥ってしまう「消極的ニヒリズム」、もう1つは虚無を前向きに捉え、自身の更なる飛躍(超越)を目指す「積極的ニヒリズム」です。

このうち、今作の主人公が取り込まれてしまったのは後者でしょう。耽美的で悲しげな語りの数々や、台詞の端端から漏れる致し方ない辛さがそれを物語ります。

「虚無には性質がない。」
キッパリとそう言い放つ療養所の男。そう簡単に割り切っていいものなのか。そりゃあ、生きていても何も得られないという事は事実なのでしょうが…。(今のところ、どんなに生きたとしても人は絶対に死んでしまうから。)
でも、「そんな事は無い」と思いたくなる程のメランコリックなストーリーが胸に染みます。そんな、とことん辛い作品でした…。
KAJI77

KAJI77