人生は誰にとっても安楽なものではないけれど、辺境の地で生きる厳しさは尚のことである。スイッチひとつで明かりは灯らない。蛇口を捻っても水は出ない。熱いお湯だなんて以ての外。蝋燭で小さな明かりを取る。水を汲んできて作物に水をやり育てる。家畜や狩猟で生き物を殺し、掻っ捌いて肉にする。生活で得たものを切り売りして僅かな金に換える。そうやって日々の糧を得ながら生きているのだ。大小のトラブルは引きも切らない。そんな厳しい生活の中に息子が安らぎを求めたのは無理からぬ。両親に頼み込んで飼い始めた野生の仔鹿。でもその仔鹿が次々にトラブルを引き起こす。息子はその度にとりなそうとできない口約束をするけれど、相手はやはり野生動物なのである。思うままに飼い慣らせる生き物では最初からないのだ。人間が簡単な考えで手を出してはいけないのだ。息子自身がその責任を取らされるのはあまりにも辛い。しかしその傷を乗り越えられないようではこの島では生きていけないのだ。彼は己の罪深さに傷つき、耐え忍んで受け止め、どうにか乗り越えた。そんな彼の表情は一足飛びに大人に近づいたように見えた。
想像していたより遥かに厳しいお話で驚いた。さすがピュリッツァー賞原作は伊達でない。ただ母を少し描き足りていないのと、仔鹿を飼うことに積極的に加担した父が何の責任も取らないのが少し気になりはする。いろんな場面で頼りなさを露呈する父よりも息子の方が随分頼もしく見える。まあ息子の将来を見据えた親心と捉えるべきなのかも知れない。