幽斎

ソニア ナチスの女スパイの幽斎のレビュー・感想・評価

ソニア ナチスの女スパイ(2019年製作の映画)
3.8
「歴史の裏側に隠された驚愕の実話」名の下に自国のスパイを描く作品がヨーロッパで相次いでる。ナチス、つまりドイツと連帯するEU諸国には、制作し易い現状も在るが何処かの国の代名詞「1000年経っても謝罪を要求」常に悪役を仰せ付かるドイツの心中も枢軸国としてお察ししたい。京都のミニシアター、京都シネマで鑑賞。

Sonja Wigert、享年66歳。彼女は1934年~1960年の間、34本の映画に出演したノルウェー人女優。アメリカのデータベースで半分程度検索できるが、確かに女優の中でもかなりの美人。第二次世界大戦の最中、ナチス占領下のノルウェーで女優として活躍しながら、スウェーデンのスパイとしてナチスに潜入した実話を元に制作。脚本を書いたHarald Rosenløw Eegは、前作「ヒトラーに屈しなかった国王」もナチスをテーマにして、英米を始め多くの国で絶賛されたノルウェー人。Jens Jonsson監督はスウェーデン人、正に当事国が揃う。

ノルウェーのアカデミー賞と言われるアマンダ賞を2部門受賞。本作は主演Ingrid Bolso Berdalに尽きる。ノルウェーを代表する国際派スター、ハリウッドでも「ヘラクレス」TVシーズン「ウエストワールド」など幅広く活躍。最初に見たのはアメリカ市場デビュー作2006年「コールドプレイ」サバイバル・スリラーだが、これでアマンダ賞主演女優賞。続編「ザ・コールデスト」スラッシャー風で、ノルウェー映画の変貌も印象に残る。角度に依ってはNicole Kidmanに似てなくも無い?。当時の衣装も見事だが、美声にも注目して欲しい。共演Damien Chapelleも良い存在感。Natalie Portman主演「プラネタリウム」憶えてる方も居るだろう。

観終わって調べると、Sonja Wigertの実像は随分と違うようだ。彼女は戦後、スペインで過ごすが、ナチスに協力的な女優と批判され、故郷の北欧には戻れず過去の栄光も忘却の彼方。演じたBerdalもインタビューで脚本を貰うまでSonja Wigertを知らなかったと述べた様に、意図的に消されてた。彼女の身分が回復を果たしたのは、政府のEU公開情報法に依る。当時のスウェーデンは、ドイツに占領され無かった為、各国の情報が犇めくスパイ天国。スウェーデンとノルウェーのEU参加で、敵国として対立したドイツと一つの国に。天国の彼女には、どう映っているのだろう?。

原題「The Spy」ノルウェーでは「Spionen」スパイ。たが、邦題「ナチスの女スパイ」これは誤認を伴う恐れがある。「二重スパイ」映像作品では分り易いが、小説では説明が難しい。諜報活動で組織の為に敵をスパイしながら、敵組織から逆に組織をスパイする為に雇われた人物「?」(笑)。二重スパイの実態は、日頃から真実の情報を与えて敵の信頼を勝ち得る。だがその情報は役に立たないか、逆効果だったりする情報に絞る。そしてイザと言う時に偽情報を流す。CIAとKGBで暗躍したAldrich Amesは有名。

逆に二重スパイが寝返るre-doubled agent、二重スパイの振りをする三重スパイも実在する、セルビア出身のDušan "Duškoは小説にも成った。ドイツの同盟国の日本が真珠湾攻撃を計画してるとの情報を提供したが、FBIはハンサムで女性関係が派手な彼を信用しなかった。彼は本当はイギリス側で、仕事の出来る彼はノルマンディー上陸作戦に関与した欺瞞工作に成功、大きな成果を上げてイギリス王室から叙勲を受ける。彼は最高機密XX(ダブルクロス)委員会に属していたが、そうとは知らず監視したのがMI-6のIan Flemingその人。007:James Bond初期の小説にリアリティが有るのは当然なのだ。

本作はアメリカでは英米の視点を介さないバイオグラフィーが「見るべき価値がある」と評価された。一方で本国の評価は芳しくない。アマンダ賞2部門と言っても、衣装とメイクアップで本筋は絡んでない。作品の骨格とか演出は悪くない、寧ろ良いが脚本は誰が見ても迷走してる。最初に紹介したHarald Rosenløw Eegとは別にJan Trygve Roynelandも参加。プリプロダクションで双方の脚本家が主張を譲らず、作品のヒストリー、サスペンス、ロマンス、3要素の配合バランスで相当揉めたらしい。

それをコントロールするのが監督の役割だが、スウェーデンで長編映画の実績がない監督に対し、脚本家2人は国際的に有名。初めから勝負は着いてる、物語はヘビーで複雑なのに展開はライトに感じてしまう。戦争の描写が薄く賛否が割れる。結果的に緊張感が持続せず、史実を描いてるのに、退屈に感じる点も否めない。身も蓋も無い事を言えば、これなら彼女のアウトラインを追う、名誉回復の物語の方がしっくりくるんじゃ?、と劇場で思った。ハッキリ言えばロマンスが前に出過ぎてる。故に本作を観て3要素がどれも薄口醤油に感じるのは、その為だ。

有名人が持つ特権と対するリスク。8月31日夜、女優の綾瀬はるかさんが、武漢ウイルスに感染して都内の大学病院に入院中と報じられた。仕事が多忙でワクチン接種をせず、発症されたらしい。普通なら「お大事に」で話が済むが、病床が逼迫し、自宅療養の感染者が激増。「上級国民は優先的に入院できるのか」Twitterでトレンド入り。世も末かな、と思うが志村けんさんなら批判しただろうか?。女性だからと批判するのは「自分目線で得か損か」を決める愚か者である。

綾瀬さんは9月下旬大型連休の数日前に退院。現在は次回作の映画「織田信長」の撮影で私の住まいする京都の東映撮影所に居る。肺炎症は簡単にぶり返す、何より心配なのは「息切れ」。重いカツラ、重い和服で時代劇特有の長台詞。ホテルは厳戒態勢で、健康管理に努めてるらしい。東映のスタッフから聞いた話で、公言しても良い許可を得てるが、綾瀬さんは退院直後で少し痩せられたそうで、カツラと衣装は微調整が必要との事。菅元総理は色々言われるが、ワクチン接種を加速度的に増し、綾瀬さんの入院の時に比べ感染者は激減した。政治が結果と言うなら、後に功績が認められるだろう。不確かな情報で無関係者から一方的に非難される。本作で描かれるソニアの葛藤、時代は何も変わってない。

女性が正当に評価されない時代を生きる、自我を失わなかった彼女を誰も責められない。
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