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追跡のotomisanのレビュー・感想・評価

追跡(1947年製作の映画)
4.0
 こころがどこかに飛んでるような、サイコな雰囲気のジェブ(ロバート・ミッチャム)に目がいって忘れがちになるんだが、この物語を裏で仕切っていたのはカラム夫人だったようだ。で、何を仕切っていたかというと、この義理の息子ジェブに仇敵グラントが手を出せないよう保護する事である。

 巻末まで種明かしはお預けなんだが、何故かサンタフェの検事グラント・カラムがジェブに敵意を隠しているらしく、米西戦争の軍への志願を強要する素振りを示し、義理の兄と友人に何事か吹き込んで殺させようとまでする。この二人を返り討ちにしたジェブだが正当な果たし合いと見做されてどちらも評決は無罪となる。
 しかし、義理の兄を殺しては、義理の妹との仲も決裂、養家は出て夫人の庇護も失う羽目になるが、そこを街の顔役に拾われてグラントも却って大っぴらには手が出せない。
 ジェブ自身は、口を開かないグラントの底意も分らず、母親代わりの夫人からの過去を詮索してはいけないとの忠告に従ってもきたが、ジェブ自身には最初の記憶として、銃撃戦のもとでカラム夫人が既にいて、幼い自分は床下の跳ね上げ戸の下に隠れているのを夫人に救いだされ夫人宅へ連れてゆかれた覚えがあり、ジェブ自身を巡って夫人とグラントに何か確執があるとは想像がつく。しかし誰も何も語らず何もつかめないまま年が過ぎる。

 転機となるのは溝を乗り越えて果たすジェブと義理の妹ソウの結婚で、これにグラントは怒り任せの決起を促しカラム一族総出のジェブ討伐に走らせる。さてこれが西部劇なら二族間の血讐沙汰で撃ち合いという普通の成り行きとなるのだが、時代はすでに1910年近く、検事を30年も続けているグラントが私刑が不法と分からない筈がないし、一族皆もその違法性から及び腰であるのも承知なのである。
 触法検事がジェブを追い詰めるなか、ジェブは記憶の始まりの現場、ジェブの本当の父と兄弟姉妹がグラントたちに殺された自宅あとで真相を知らされる。そして絞首のリンチに遭う瀬戸際、思いがけない逆転が事を収めてしまう。

 その場で死ぬのはグラント検事、射殺したのはカラム夫人、理由はジェブを不当な私刑で殺そうとするのを止めるためにやむなく発砲したから。元々及び腰のカラム一族はそれをよく分かっていたはずだ。
 おそらく、カラム夫人はグラントを制するには彼が不当な行為を始める状況が必要で、さらに殺す名分が立つ状況とすれば対等に不当な殺人、グラントによるジェブ殺しの現場を押さえる以外に考えられないと踏んでいたのだろう。カラム夫人に準備期間があれば、おそらく、この反撃を補強するためのカラム一族の暴挙を告発する文書を街の顔役に預け、いつでも一族への脅迫に使える用意ぐらいはしていただろう。あの男なら十分グラントの背後を衝けるから。
 そして、その30年前の事とは、ジェブの父親とカラム夫人との不倫がもとで夫カラム氏がジェブの父に殺され、その復讐によりジェブの一家がカラム一族から皆殺しに遭ったというもので、首領グラント・カラムは命拾いしたジェブをいつか殺そうと狙い続けてきた。だが、姦通は刑事罰対象ではないし、私刑は違法だし、殺人を阻止する緊急の発砲だし、そもそも検事がそんな違法をやってカラムの名を汚したら一族よどうする?集まりついでにグラント死亡の「穏便」な事情の口裏を合わせておけというわけである。
 こんな、30年間誰も手出しできなかったカラム夫人が実は何者なのか、これが分からない。ただ、あの場を仕切った夫人に誰も声ひとつ上げられなかった事をみなが目に焼き付けた事だろう。