MasaichiYaguchi

ステップのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

ステップ(2020年製作の映画)
4.1
重松清さんの小説を山田孝之さん主演で飯塚健監督が映画化した本作では、掛け替えのない存在を失った主人公の親子が再生への道を一歩ずつ進んでいく様が2人を取り巻く人々との交流を通し、繊細に、エモーショナルに描かれていて心の琴線に触れてくる。
山田孝之さんというと癖の強い役柄を演じていることが多いが、この作品では愛娘役の子役たちと一緒に等身大の父親を演じていて新鮮だ。
父子家庭を描いた映画というと、古くは「クレイマー、クレイマー」、「I am Sam アイ・アム・サム」があり、最近の作品だと「幸せへのキセキ」や「gifted/ギフテッド」がある。
厚生労働省の平成27年の発表では母子家庭123.8世帯、父子家庭22.3万世帯で25年間で、母子世帯は1.5倍、父子世帯は1.3倍増えているとのこと。(平成23年度調査)
年間平均収入においては母子家庭が181万円に対し、父子家庭は360万円となっていて、この収入格差に対し、母子家庭には支援制度が多く設けられている。
勿論、父子家庭においても児童手当、児童扶養手当、医療助成制度も適用されているが、何よりも本当に求められているのが子育てを支援する仕組み作り。
この作品では、妻を亡くして男手一つで娘の美紀を育てる父親・健一の悪戦苦闘ぶりや、その中での葛籐や苦悩がリアルに描かれ、同じサラリーマンの父親として、その心境が痛いほど伝わってくるので激しく心を揺さぶられるてしまう。
更に本作には悪人が登場せず、時に悲惨な状況に追い詰められている健一に様々な形で手を差し伸べるシーンがエモーショナルに登場するので感情を抑えられなくなる。
タイトルの「ステップ」の意味は「歩み、足取り」だが、本作においては「ステップファミリー」という含意がある。
喪失感で開いた心の穴を埋められないとしても、前を向いて歩もうとする健気な親子の姿をとして、家族とは、生きるとは優しさと希望で描く本作は一足早い春の温もりで溢れている。